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露発電所事故 12人死亡62人不明 “水のチェルノブイリ”悪夢これからも

8月20日7時57分配信 産経新聞

 【モスクワ=遠藤良介】ロシア中部ハカシア共和国にあるロシア最大の水力発電所で17日、発電所内に大量の水が流れ込み、従業員ら12人が死亡、62人が行方不明となる事故があった。かつて「ソ連エネルギー技術の粋」「巨大プロジェクトの象徴」と喧伝(けんでん)された発電所に何が起きたのか−。専門家からは構造上の欠陥や設備の老朽化を指摘する見方が出ており、人命や生活にかかわる旧ソ連・ロシアの技術に改めて疑問符を突きつける大惨事となった。

 事故が起きたのは、1978年に稼働を開始したサヤノ・シュシェンスク発電所。17日未明、通常は取水路からタービン、排水路へと流れるべき水が何らかの理由で制御室になだれ込んだ。発電設備10基のうち4基が全壊もしくは破損しており、完全復旧には2〜4年を要するという。

 国営ロシア水力発電や検察当局は事故原因として、(1)水圧によるタービン類の破損(2)保全作業に絡む爆発(3)導水路の開閉などでの作業ミス−といった可能性があるとみている。

 ただ、多くの識者が強調しているのは、全般的な設備の老朽化に伴う問題だ。有力紙ブレーミャ・ノボスチェイは「(各地の)水力発電所は悲惨な状況にある」「今回の事故は保全作業や設備更新の資金が不足してきたことのツケだ」との見方を伝える。ロシアは2000年以降、石油価格の高騰に潤いながらも社会基盤や医療・福祉分野の整備を後回しにしてきた経緯があり、水力発電所の事故も01年以降で少なくとも9件目となる。

 一方、ミロフ元エネルギー省次官はラジオ番組で「この発電所には設計上の深刻な問題があり、かねて危険な施設とみなされていた」とも指摘。高等経済大学のヤシン研究部長も有力経済紙ベドモスチに「本当の原因は(ソ連技術者らの)建築基準に対するいいかげんな態度にあると確信する。この意味で(1986年に大事故を起こした)チェルノブイリ原子力発電所に似ている」と語った。

 サヤノ・シュシェンスク発電所の管内には世界最大のアルミ企業「ルスアル」や鉄鋼大手「エブラズ」など基幹産業の工場が集中している。他の発電所から電力をまわすなど緊急措置が講じられているものの、電力の不足や価格高騰でこれら企業や経済全体に影響が出るのは必至だ。電力需要がピークに達する冬場の住民生活も懸念され始めている。

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【用語解説】チェルノブイリ原発事故

 1986年4月26日、旧ソ連ウクライナ共和国のチェルノブイリ原子力発電所4号炉が炉心溶融(メルトダウン)を起こして爆発、大量の放射性物質が放出された史上最悪の原発事故。ソ連は当初、事故を公表せず国際的な非難を浴びた。国際機関が公式に認定した事故による死者は60人だが、放射能被害による推定死者数は4000人から数万人に上る。

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最終更新:8月20日8時29分

産経新聞

 

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