日銀による「異例の措置」、役割は後退しつつある=須田審議委員
9月9日13時44分配信 ロイター
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9月9日、日銀の須田審議委員が企業金融支援策について「役割は後退しつつある」との認識を示した。写真は都内の日銀本店。3月18日撮影(2009年 ロイター/Yuriko Nakao) |
日銀は7月の金融政策決定会合で、金融環境はなお厳しい状態にあるとして「異例の措置」の実施期限を12月末まで延長することを決めた。
<十分緩和的な金融環境維持すること必要>
須田委員は「異例の措置」の取り扱いについて「企業金融の状況を『異例の措置』継続の要否の観点からあらためて点検し、仮に情勢が改善していれば、終了または見直しを行う一方、情勢が十分に改善しておらず、継続が必要と判断される場合には延長することになる」と日銀の方針をあらためて説明。「現在のところ、それに向けて予断は全く持っていない」とした上で、「解除するか延長するかにかかわらず、日本経済が物価安定のもとでの持続的成長経路へ復していくことを促すべく、当面は十分緩和的な金融環境を維持していくことが必要だ」と強調した。「今後、仮にバランスシートが縮小していったとしても、金融調節方針が変わらないもとで、金融緩和の度合いが低下するわけではない」とも付け加えた。
<金融環境は改善、異例の措置は役割後退>
異例の措置をめぐっては、実際の資金供給だけではなく、企業に安心感を与える役割も指摘されている。須田委員は「異例の措置は企業に対して一定の安心感を与えてきた。したがって、それを解除することで再び不安感を呼ぶのではないかという懸念も理解できる」としながらも、1)CP等買い入れオペ、社債買い入れオペでは大幅な札割れが続いており、それらの必要性は低下している、2)短期オペ残全体に占める「異例の措置」の比率はさほど高くない、3)共通担保資金供給といった通常のオペのレートも、十分低い水準まで低下していることから、企業金融支援特別オペの相対的な位置付けも低下している──ことを挙げ、「企業金融を取り巻く環境は、通常の資金供給オペで代替しても安心感を損なわないレベルにまで改善しつつあるのではないか」との見方を示した。
さらに「異例の措置の持つデメリットを軽視すべきではない」とも付け加え、「行き過ぎた状態が長く続けば、投資家の投資意欲が後退し、市場が本来持っている自律的な調整機能をかえって阻害することになりかねない。また、中央銀行がミクロ的な資源配分に少なからず関与することによって、市場の公平性や効率性を阻害してしまうリスクもある」と強調した。
こうした考え方を踏まえ、須田委員は「企業金融を取り巻く環境が十分改善したにもかかわらず、『異例の措置』を必要以上に長引かせるようなことがあれば、副作用による悪影響が、導入によるプラス効果を結果的に凌駕してしまうことにもなりかねない。そうしたことが生じることのないよう、十分留意していく必要がある」と繰り返した。
<ダウンサイドのテールサイドリスクは低下>
須田委員は日本経済について「足元までの経済指標をみると、『わが国の景気は、本年度後半以降緩やかに持ち直していく』という標準シナリオにおおむね沿った展開となっている」との認識を示した。その上で「目先のダウンサイドのテール・リスクはかなりの程度低下した」と明るい兆しを指摘したが、「やや長い目で見れば、経済対策効果や金融システムの帰すうなど、先行きに対する不透明感は依然根強い」と警戒感も崩さなかった。
今後については「経済対策に支えられた持ち直しの動きから自律的な景気回復の動きに順調に移行していくかどうかがポイントになる」との見方を示したが、「この点については、依然として不確実性が高いと言わざるを得ない」と繰り返した。
こうした情勢判断から須田委員は「引き続き実体経済と金融の負の相乗作用に対する警戒を怠るべきではない」と強調する一方で、「日本のバブル崩壊後の経験に引きずられ、米欧の金融市場や経済の先行きに対する見方が過度に慎重になり過ぎていないか、虚心坦懐にチェックすることも重要だ」とも語った。
また、拡張的なマクロ経済政策についてのリスクを指摘し、「財政ディシプリンへの疑念による長期金利の上振れリスクにも警戒が必要だ」との認識も示した。
<短期的な物価下落に政策が振らされるべきでない>
消費者物価(除く生鮮食品)の前年比はマイナス幅を拡大させているが、これについて須田委員は「デフレをはやす向きもうかがわれるが、これまでのところ想定の範囲内の動きだ」との見方を示した。
その上で「最近、消費者物価指数の前年比が当面マイナスで推移するとみられる中で、果たしてそれが物価安定と言えるのか、という指摘を耳にするが、人々のインフレ予想が大きく下振れていないもとで、やや長い目でみれば、消費者物価指数の前年比のマイナス幅が徐々に縮小していくという見通しのがい然性が高いのであれば、短期的な物価の下落に金融政策が振らされるべきではない」と強調した。
須田委員は「当面は、景気や中長期的なインフレ予想の下振れなど、インフレ率が想定以上に下落するリスクの方を意識しておく必要がある」としながらも、「より長い目でみれば、グローバルな金融緩和が続くもとで、再び商品市場に資金が流入し、一次産品価格の高騰を通じてインフレ率が想定以上に上振れてしまうリスクについても、引き続き留意していく必要がある」と語った。
物価の下落をめぐっては、市場の一部には「時間軸」を導入すべきといった声があるが、須田委員は「量的緩和時代のように強力なコミットメントを使ってしまうと、市場がそれを織り込んでしまうため、市場で自律的に形成された予想をみているつもりが、実際には自分の姿を市場という鏡で見ているにすぎない、ということになってしまう」と否定的な見方を示し、「必要なのは機動性に欠ける直接的なコミットメントではなく、さまざまな出来事に対して日本銀行ならどう対応するかを想定することのできる明確な枠組みであり、その枠組みの考え方について、市場と認識を共有しておくことだ」と強調した。
(ロイターニュース 志田義寧記者)
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最終更新:9月9日13時45分
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