悩むことと決別したのはOL時代、
通勤途中だった
「私がここまでこられたのは、迷いがなかったから。誰が反対しようが、自分のやりたいことはやる、やると決めたら即行動。若い時にさんざん悩んだので、今はもう悩まないんです」
漫画、エッセイ、小説にヌードと常に新しい挑戦を続けるさかもと未明さんの考えかたは非常に潔い。そんな彼女を作ったのは、彼女のOL時代のできごとにある。
漫画家志望だったものの、母親の強い反対でまずは商社に就職。本人は5時に仕事を終えて、帰宅後作品を描くつもりだったが……。
「それまで『就職してから好きなことやりなさい』って言われ続け、我慢して就職したのに、いざ入ったら毎日帰りは10時過ぎ。好きなことする時間なんてないわけ。だまされたよ……と思いました」
思うように作品も描けず、そうはいっても仕事に興味はわかず、慢性的な睡眠不足が募り、彼女は徐々に精神的に参っていく。ある朝、通勤途中のホームで涙がとまらなくなり、半日駅のベンチで泣き伏してしまった。
「半日泣いてるのに、駅員もこないし救急車もこないし、誰も声をかけてくれないの。思い余って、前から相談してた親戚の叔父に泣いて電話したら『みんな働かなくてはいけないんだ』とか、正論言われて切られてね。あぁ、誰も助けてくれないんだ、自分で立つしかないんだと身に染みました。このとき以来、どうせ誰も助けてくれないから、やりたいようにやろうと、ちまちま悩むことはいっさいなくなりましたね」
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結婚、そして念願の漫画家デビュー。
ところが運命は思いがけない方向に
この後うつ病が進んで休みがちになり、会社をクビに。もともと親と折り合いが悪く一人暮しをしていたので、「ホステスをしながら漫画を描こう」と考えていると、中学時代の男友だちが「だったら結婚しよう」と言ってくれた。彼の両親との同居生活は「初めて家庭っていいなと思った」ほど温かいものだったそう。そこで家事をしながら漫画を描いては、持ち込みを繰り返した。
「もともとOL時代に持ち込んだときから、レディースコミックに向いてると言われてたの。でもレディコミは裸やセックスシーンばかりであの頃は恥ずかしくてね(笑)」
1年間、青年誌に持ち込んだが芽が出なかった。どうしても漫画家になりたかった彼女は、覚悟を決めてレディコミに持ち込んでデビューすることに。その後はトントン拍子であっという間に夫の収入を追い越した。しかし、忙しさで家庭生活が営めず、夫に彼女ができてしまった。
「私は夫に命を救ってもらったようなものだから、彼のいいようにしてあげようと、すぐに離婚届に判を押して渡したの。そうしたら彼はビビっちゃってね。私はすでに悩むのをやめていたから決めたら早い。彼が煮え切らないから、彼のお母さんに離婚届を渡し、荷物をまとめて東京に出てきたんです」
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おしゃれもせず、遊びもせず、ひたすら働きお金をためた30代前半までの日々
25歳で離婚。仕事は上り調子だったが、そこからはお金の苦労が続いた。漫画家は仕事が増えるほどアシスタント代がかさむ。コミックスを出して初めて潤うが、レディコミはほとんどコミックスにはならない。たとえ月300万円の原稿料が発生しても、約240万円はアシスタント代に消え、家賃や経費を払うと手元に残るのは微々たるもの。安いギャラしか払えず、アシスタントに締め切り前に逃げられたり、馬鹿にされたりとつらい目にあった。全盛期には7人いたアシスタントの支払いを、彼女はホステスや芸者のバイトをしてしのいでいたほどだ。
「このままだと10年もたない……と真剣に仕事のやり方を考えました。編集者からは、レディコミでトップをとれば仕事の可能性が広がると言われていたので、まずトップをとろう!
そして自分の知名度と価値をあげ、クオリティの高い仕事にじっくり取り組むことができる環境を整えよう、と計画を練りました」
知名度をあげるため、インタビューの機会は逃さない。がむしゃらに働き、少しでも余裕ができると、歴史漫画に挑戦したり、小説を書いたり、と先行投資を行なって編集者に作品をアピールした。また、基本的に漫画家はアシスタントと共に仕事をするため、広いスペースが必要となる。多大な家賃を払い続けなくてもいいように、とにかくお金を貯めて郊外にマンションを買うことも決める。
今の未明さんからは想像できないが、30歳を過ぎるまでは、別れた夫からもらったジーンズとTシャツで通し、服は買わなかった。旅行も遊びにも行かない地道の一途。全力を仕事に注ぎ、34歳で埼玉にマンションを購入した。
「もう爪に火をともす、といってもいい状態だったわね。私は体が弱いから、仕事である程度成功を収めるために、いろんなものを捨ててきました。お金のためもあったけど、遊び、おしゃれや旅行。婚約までした彼もいたけど別れた。私はどうしても仕事が人生の優先順位の1位になってしまう女だから、結婚も出産もある意味あきらめてる。今の女の人は両立両立ってみんな言うけど、そんなこと無理なんじゃないの?」
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女の価値は若さじゃない!
その生きかたの迫力を見せつけて
仕事、結婚、出産。この3つの間で揺れ動く女性は多いが、未明さんは迷わない。潔いほど仕事以外を切り捨て、ここまで自分の地位を押し上げてきた。今はおしゃれもある程度楽しめるようになったが、多少潤ってもすぐ先行投資に回してしまうので、儲かることはない。現在話題のヌードも発端は先行投資だ。漫画家の知人と共同で撮り貯めたプライベート写真が、結果として評判を呼んでいる。実は10年前にもヌード写真集の話はあったが、当時は「いい作品を作りたい」という未明さんの思いをうまく表現できなかったこと、またヌードになった自分の環境がどう変化するかを読めなかったことにためらい、実現しなかった。ある程度知名度が固まった今なら、仕事が減ったり、変な目で見られることもないだろうと、10年前の悔いにけじめをつけた。
「私が今回、38歳でヌードをやりたい、と編集者にいったら『どうぞ』と言われたので驚きました(笑)。女の価値は若さじゃないの。その生きかたや覚悟の迫力よ。だから25や30であせっちゃだめ。最高に魅力的な女で仕事ができるなら、いくつになっても世の中を変えられる。というか、私が出たことで、世の中の女性観を変えてみせる。なんだかすごいこと言ってますが(笑)、まだまだ未明は発展途上。本当の一流になるまで、人生をかけてがんばります」
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08:30
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仕事終了
家の回りをジョギングしてから就寝 |
11:00
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アシスタントさんが出勤
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14:00
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起床後、食事をとる |
16:00
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近所のスーパーへ買い物に行ったり、銀行に行ったりと細々とした用事を済ます
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18:00
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漫画原稿を描き始める |
24:00
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食事をとる。その後、朝まで仕事を続ける |
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