法令文の改善 (五の24)

  大正十四年十二月二十四日、行政調査會から「法令形式改善案」が發表された。それによると、「法令の用字、用語、文體、その他記述の方法を改善し、努めて之を平明ならしむること」とし、「法令の用字、用語及、文體は成るべく平易を旨とし、通常の用例に依ること」「法文の簡約に過ぎあるいは概括に失するの弊を矯むること」「その他、法文記述の方法は實用を主眼とし、懇切なるべきこと」といふ留意すべき三項を擧げてゐる。

  また翌十五年六月一日、總理大臣若槻禮次郎は、内閣訓令號外を以て「法令形式ノ改善二關スル件」を各官廳に通達した。その前半は次の通りである。

* 現今ノ諸法令ハ往々ニシテ難解ノ嫌アリ。其ノ原因が内容ノ複雜ナルニ存スル場合ナキニアラザレドモ、記述ノ方法ヨリ來レルモノ亦少カラズ。自今法令ノ形式ヲ改善シテ文意ノ理解ヲ容易ナラシムルコトニ力ムルハ時勢ノ要求ニ應ズル所以ノ道ナリト信ズ。今此ノ點ニ關シ特ニ留意スべキ事項ヲ擧グレバ左ノ如シ。
一、法令の用字、用語及ビ文體ハナルベク之ヲ平易ニシ、一讀ノ下容易ニ其ノ内容ヲ了解セシメンコトヲ期スベシ。又現行ノ法文ニ於テハ特殊ナル場合ノ外濁音ノ假名ヲ用ヒザレドモ、思想表示ノ方法ヲ出來ル限り正確ナラシメンガ爲ニハ一般ニ之ヲ用フベキノミナラズ、句讀點、括弧及ビ之ニ類スル符號ヲモ使用シテ文章ノ章句段落ヲ分チ、列記セル名詞ヲ區分シ、挿入セル語句ヲ明カナラシムル等ニ便ズベシ。尚送假名ハ世間ノ常例ニ從ヒテ之ヲ使用シ、略字ハ一般ニ通ズルモノヲ採用スルコトヲ妨ゲザルベシ。
右ノ外難解ナル漢字、古典的用法ニ關スル假名ハ努メテ之ヲ避ヶ、舊法令ニ用ヒタル特別ナル語句、語法トノ調和ノ如キハ必ズシモ之ニ拘泥セズシテ可ナリ

  要するに「法令ハ国民ノ準行又ハ利用スル所ナルニ顧ミ、其ノ理解ヲ容易ナラシメンガ爲ニ平易明瞭、懇切周到ヲ旨トシ、徒ラニ形式體裁ノ美ニ流レザランコトヲ期スベシ」といふものであり、現今のやうに、當用の漢字を永世絶對のもののやうに見倣して、やたらに法律用語を變改しようといふわけではない。