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裁判員、被告の更生重視 山口・神戸で保護観察付き判決

2009年9月10日3時6分

 介護に疲れて寝たきりの妻を包丁で刺した夫。無理心中しようと父親の頭をガラス製の灰皿で殴った息子。家族間で起きた二つの殺人未遂事件の裁判員裁判で、山口、神戸両地裁の裁判員らが9日に言い渡した判決は、いずれも被告の立ち直りを求めるものだった。市民に身近な事件。裁判員は何を考えたのか――。

 山口地裁では午後、脳の出血で寝たきりになった妻を13年にわたって介護していた被告(63)に懲役3年執行猶予4年の判決が宣告された。裁判長は被告に語りかけた。「裁判員の皆さんも、この後の奥さんとの関係がどうなるか関心を持っています」

 午前中には神戸地裁で、父親を殺そうとした被告(40)に同じ量刑が言い渡された。「家族を大事にして幸せになってほしいというのが、私たちの願いです」。裁判長はそう被告に説諭した。

 山口、神戸の判決の特徴は、いずれも猶予期間中の「保護観察」を付けていることだ。被告は、保護司や保護観察官の監督や指導のもとで暮らしながら更生を目指す。

 犯罪白書によると、07年に殺人罪(未遂も含む)で一審判決が出た619件のうち、執行猶予が付いたのは109件。そのうち保護観察が付けられたのは23件に過ぎない。

 ベテラン刑事裁判官によると、保護観察を付けるのは自分の力だけで立ち直ることが難しそうなケースだという。「『夫婦の関係を修復させたい』という裁判員の思いが強かったのではないか」と推測する。

 「裁判員は責任の追及以上に、今後の更生のことを考えていることが分かる」。量刑に詳しい北海道大大学院の城下裕二教授(刑法)はこう指摘する。

 山口の事件では、判決後の会見に出席した裁判員と補充裁判員計5人のうち4人が、自分や妻が何らかの形で両親らの介護や世話にかかわったことがあると述べた。

 城下教授は「介護を経験していたり、周辺にそうした境遇の人がいたりすることも大きいのではないか。裁判員が加わった判決には、より福祉的な視点が込められているように思う」と話す。

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