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  オール電化再考 11.19.2006
          
 二つの報告書が対立



 米国化学工学会で「日本におけるグリーンと持続可能性という言葉の持つ意味とその化学」について発表をするためにサンフランシスコに滞在していた。結構、多くの出席者がいたし、反応もあってよかった。

 その後、他の発表を余り聞かないで、様々な宿題をしていた。そこで、このHPも書いていた。そのために、かなり長い。どうも2回分はある。

 それにしても、米国化学工学会という学会は大きい。日本の化学工学会よりもカバーする学問の範囲も広いので、真面目に動向を見守る価値があるのかもしれない。

 話は突然変わるが、日経エコロジーにエコミシュランが再登場する。先日、エコミシュラン復活編の第一回目の研究会で、気候ネットワークからの報告書に対して、電中研が反論をしているとの情報を貰った。話題は、オール電化を採用することによって、二酸化炭素の排出は減るのか、あるいは、増えるのか。

 本HPおよびエコミシュランの見解は、エコキュートを導入した場合にのみ、二酸化炭素の排出は多少減る。すなわち、これまで何回か検討してきたように、給湯装置に何を使うかが決め手。

 方向性の異なる2つの報告書が出てたので、この問題を、再度、議論してみたい。

(1)『オール電化住宅は地球温暖化防止に寄与するのか?』
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
http://www.kikonet.org/hakko/img/panhu/all-denka-paper.pdf

(2)『オール電化住宅は地球温暖化防止に寄与するのか?』への疑問〜電中研の計算ではオール電化住宅のCO2排出量は一般住宅より16%少ない!
http://criepi.denken.or.jp/jp/topics/061030.pdf 


C先生:気候ネットワークの報告書は、18ページもの量があり、様々な検討が行われている。その紹介からしよう。

A君:きちんと目次もあって、

はじめに........................................................3
1. オール電化住宅をめぐる情勢..................4
1.1. オール電化住宅とは....................... 4
1.2. オール電化住宅は増えている......... 4
1.3. 居住者の声........................................... 5
2. オール電化住宅の魅力とされるところ...............6
2.1. IH クッキングヒーター................................ 6
2.1.1 安全できれいなコンロ.......................... 6
2.1.2. 出力と熱効率の問題.......................... 7
2.2. 高効率な給湯器.......................................... 8
2.2.1. 大きく向上した効率....................................... 8
2.2.2. 実際の利用上での熱効率の疑問................. 8
2.3. オール電化住宅の電気料金体系とCO2 排出量............ 9
2.3.1. オール電化住宅で電気代が安くなる........................ 9
2.3.2. オール電化住宅のCO2 排出量............. 10
2.3.3. 深夜電力を使うエコキュートの経済性............... 11
3. コンセントの向こう側にある問題..............................12
3.1 電力供給の問題............................................ 12
3.2 深夜電力使用が意味すること 〜原子力発電の問題............... 14
3.3. 総電力需要の増加................................................... 15
4. まとめ 〜選択の際に考えるべきこと...........................17

B君:本質論以外にも、結構面白い内容が多い。電力各社のオール電化住宅の増加量の統計を見ると、なんと東京電力が84%の伸び率。2位の関西電力の37%を圧倒的に高い。もっとも低いのが北海道電力の13%。

A君:しかし、よくよく見ると、累積世帯数が関西の28万件に対して、東京は20.6万件しかない。関西電力が強力に売り込みを行っていることは周知の事実である。

B君:九州も28万件ある。伸び率だけでは議論できない。普及率は、3%強になったらしい。

A君:オール電化の定義は、ガス会社と契約をしていない、ということですよね。

B君:そう思う。有利な電力料金を契約するための条件らしい。給湯として、エコキュートあるいは通常の電気温水器が、そして、コンロはIHヒータが設置されているものと解釈できる。

A君:オール電化の採用比率のグラフもあって、それを見ると、東京、中部、関西では、すでに新築の35%がオール電化になっている。一方、北海道と北陸は5%程度。

B君:エコキュートにしても電気温水器にしても、深夜電力を使って沸かしているのだから、夜に風呂に入るなら、15時間程度保温されている必要がある。そのために、断熱材を使っている訳だが、冬季の気温が低い地方では、温度の低下が大きいだろう。エコキュートは、寒冷地向きではない(??)のかもしれない。

C先生:オール電化住宅がなぜ消費者に受け入れられるのか、気候ネットワークは、IHクッキングヒーターが魅力的だから、という判断のようだ。まず、IHヒータについて、復習になるかもしれないが、検討をしてみよう。

A君:ガスコンロによる火災の発生確率が、IHによって下がるから安全だと思う、というのが指摘の一つ。

B君:しかし、気候ネットワークによる2番目の指摘である、清潔さと掃除が楽が、実は、1番の理由だというのが、我々の見解

A君:さらに、キッチンを冷房する場合には、どうしても、IHの方が効率が良い。電気というエネルギー源は、廃熱を発電所で捨ててきているので、台所では、無駄な熱は余り出ない。

C先生:IHを使ったとしても、臭いの問題があるから、換気はしなければならないので、冷房との相性は悪い。台所を冷房するのは、やはり相当なエネルギー大消費型生活の典型になってしまう。熱交換型の換気装置を備えれば、多少ましだろうが。

A君:台所だと換気をするから良いのですが、ガスの場合だと、NOxやホルムアルデヒドの発生がありますね。

B君:一般に、換気に対する意識が低いのも問題。

A君:それにしても、あの何も邪魔物が無いトッププレートが最大の魅力なのでは。

C先生:あのトッププレートに使われている結晶化ガラスがドイツ製なのだ。もっとも、ガスコンロでも、ピピットコンロだと同様なのだが。まあ、関係ないが、もともとガラス屋だったもので、なんとなく気になる。

A君:掃除はIHが簡単だけど、料理についてはガスが優位。煮込みでは差が無いが、炒め物ではガスが優位。中華なべを使って少量の油処理といった技はIHだとできない。ただ、いつでも炒め物ではないし、最近、料理を余りしない主婦が増えていることも、IHが普及している理由かもしれない。

B君:料理という概念が変わっていることも一つだろう。電子レンジを使って料理をするとか。

C先生:それにしても、IHの効率をガス会社と電力会社が異なった値を使っているという実態が報告されているのが面白いというか、困ったというか。

A君:気候ネットワークの報告書によれば、「IHは最新のもので熱効率が90%」。

B君:ところが「東京ガスの比較では、IHの効率は79%で計算している」。

A君:もっともIHの熱効率を90%としても、ガスの方が最終的に必要な一次エネルギーが少ない。

B君:その計算だが、東京ガスのものは、電気をすべて火力発電所で発電していると仮定している。発電効率を127/345=36.8%

A君:これに対し、気候ネットワークは、平田賢先生が「機械の研究」第54巻第4号、2002年で紹介している1998年度におけるエネルギー供給消費のフローチャートから、発電効率を15/43=32.5%と推定していて、上記の数値は実態を反映していると記述していますが、なぜ、この数値を用いなければならないのか、良く分からない。説明がない。この数値が多少低いのは、原子力発電における熱の利用効率が低いからか。原発のタービンの運転状況は、安全係数が大きくなっていて熱効率が悪いのだ。

B君:しかし、同じところに、「すなわち、電気は家庭に届くまで、投入した一次エネルギーの3分の2を捨てているという点で、効率の悪いエネルギーであるということになる」、という記述があるが、これを見ると、どうも、エネルギーというものの本質を理解していないのではないか、と思われる。

A君:その次にも妙な記述があって、「以上を地球温暖化防止の観点から考えれば、ただ単に、家庭内での熱効率が良いことのみを見てIHを選択するのではなくて、一次エネルギーの省エネを考えなければならないと言える」。

B君:その後半の記述はその通りなのだが、実は、「地球温暖化防止の観点から考えれば」ではなく、「エネルギーの有効利用を考えれば」と直さないと、論理的に間違っている。どうも、気候ネットワークの筆者は、「省エネルギー」と「二酸化炭素排出削減」の区別ができていない。

A君:化石燃料を燃やす場合には、似ているので混乱しているのでしょう。二酸化炭素の議論は、この直後に始まるので、B君の指摘はまさにその通り。

C先生:この報告書の著者は、エネルギーの専門家ではないことは確実だし、また、温暖化防止の専門家でも無いのだろう。
 多少とも熱力学をかじっている人間の解釈は、こんなものになるのではないか。調理ということを熱力学的に見れば、まず、重要なことは温度。熱源として300℃ぐらいが必要。電気は自由自在なエネルギーなので、その気になれば、放電を使って、数1000℃という温度の実現も可能。すなわち、もともと調理用としては、性能が良すぎるエネルギー源なのだ。300℃という温度がやや中途半端であることは事実なので、給湯器のように効率が100%を軽く超すヒートポンプを使うことは不可能。IHという手法の価値は、ヒートポンプのように、雰囲気からの熱を活用するといった根本的な技術ということではなく、単に、効率の最大値である100%に近い効率90%以上が実現できたこと。その理由は、鍋そのものが発熱体になるから。電気を直接熱にしていることに違いはない。そして、それなりの総合効率にはなったものの、やはり調理というものは、電気という自由自在なエネルギーを使う対象としては、ややもったいない対象なのだろう。

A君:逆に言えば、電気を調理程度に使うものだから、この程度の効率にしかならないとも言える。

B君:ガスの場合もその気になれば、もっと高い温度が出るのだが、とはいえ、ガスでも調理に必要な温度を考慮すると、いかなる工夫をしても燃やして熱を出すのが唯一の方法であるのも事実。例えば、ガスエンジンコジェネで熱と電気を出しても、その熱が調理に使えるわけではない。
 まあいずれにしても、熱というものは、質的には低級なエネルギー形態なもので、燃焼という原始的な方法でガスを使っても、まあ、そんなにも無駄にはならない。

C先生:だから、調理には、燃焼という方法、すなわち、ガスのエネルギーでも良いというのが最初からわかっている結論。一方、IHは、もともと調理ごときに電気を使うのは、熱力学的にモッタイナイことだし、かつ無理をしている。そのために効率で勝負できるとは考え難く、清潔さとか安全性などの付加的価値で売らなければならないのが実態

B君:その清潔さと安全性で選択する消費者が多い。まあ、本質よりも付加的価値が重視されるという、ご時世にあった商品。

A君:気候ネットワークの主張は、先ほども一部引用したように、「発電用に投じられた43のエネルギーのうち、28は損失として捨てられており、電気として利用されるのは15のみとなっている。すなわち、電気は家庭に届くまでに投入したエネルギーの3分の2を捨てているという点で、効率の悪いエネルギーであるということになる」ということだ。

C先生:電気に対するこの理解はひどいものだ。電気は効率が悪く無駄が多いエネルギーなのではなくて、電気とは、自由自在なエネルギー(テレビが動き、冷蔵庫が動く特性)が欲しいから、多少無駄がでても、作るに値するエネルギーなのだ。そんな高級なエネルギーを熱という低級なエネルギーだけが必要な調理ごときに使うから、無駄が出てガスに敵わないのだ、ということを結論にすべき

B君:そのあたりの感覚は、エネルギー同士の相互変換とか、エクセルギーとかいった概念を多少知らないと、身に付かないのかもしれない。

C先生:エクセルギーの話は、そのうちにやってみたいと考えているのだが、何を題材にするのがベストなのか、いまだに良く分からない。ただ、最近、エクセルギーでリサイクル効率を議論したり、さらには、環境汚染も説明しようとか、あるいは、コップ用の材料として、茶碗、ガラス、プラスチック、紙のどれがもっとも良いかをエクセルギーで説明しようといった概念を拡張した試みがあるようだから、まあ、何時になるか分からないが、フォローだけはしておこうと思う。

A君:その次に、IHでお湯を沸かす場合におけるCO2排出量を比較していて、「ガスコンロでお湯を沸かす場合のCO2排出量を100とすれば、IHだと128になる」、とする東京ガスのデータを報告していますね。大体そんなものでしょう。IHの効率が79%で計算されていると思いますが、もしも90%だとすると、もっと接近しますが。ただし、この場合には、全電源平均需要端、すなわち、通常の家庭を対象に計算した場合の二酸化炭素発生の原単位、0.36kgCO2/kWhを使っています。

B君:ところがそのとなりに東京ガスが作った図が出ていて、ガスコンロ=100、電気コンロ=265となっている。このとき、東京ガスの使っている仮定が面白い。
 「今後、オール電化住宅が増えると、当然、昼間の電力需要が上昇する。それを賄うのは、需要変動への対応を考えると火力発電所を新たに作らなければならなくなるだろう。だから、実は、IHコンロでも、CO2の計算は、火力発電所の場合を採用しなければならない」、という主張だ。

A君:意味のある見解であって、ごもっとも。すでにオール電化にした人はまあ現時点での家庭に来ている平均的な電力構成に基づいて計算しても良いけど、これからオール電化にする人は、その値を計算に使えということであれば、十分納得ができる。

C先生:このあたりが、ガス会社と電力会社が喧嘩していると言われるゆえんだろう。
 IHについてまず、結論をまとめよう。ここでもっとも大事なことは、オール電化は環境負荷が低いといっても、その中身は相当に複雑であることだろう。
 IHヒータに関して言えば、まず、環境負荷は高いと見る方が妥当だ。それは、いかに複雑なIHという装置を使っていても、電気という自由自在に使えるエネルギーを熱というもっとも低級なエネルギーに変えているからなのだ。電気は万能エネルギーなので、熱という低級なエネルギーから、かなり無駄をしてでも作る。それを熱に戻してしてしまうのは、余り賢くはない
 消費者として注意して欲しいことは、もしもどうしてもIHヒータが欲しければ、最低限、鍋は効率の高いIH専用のものを使うこと。それは、「清潔さと掃除の簡単さ」という利便性を享受することの代償として、それに付随する環境負荷の高さをできるだけ補うものなので、必須だと考えて貰いたい。電機メーカーが、「アルミ鍋も使えます」などというが、それをそのまま信じてはいけない。相当に効率が悪くて、実は、犯罪的行為なのだ。
 さらにもう一つ重要なことは、環境負荷の大小といっても絶対的な解答がある訳ではなく、社会が変わると変わること。IHが余り普及することは、実は、電力会社にとっても困ることなのだと思う。電力需要がますます揺らぎが大きくなる可能性があるので。
 いずれにしても、エネルギーがどうやって作られるか、それが大きな影響を持っていることだ。その知識をしっかりと身につけて貰いたい。

A君:そして、給湯の話になって、今度は、エコキュートを攻撃しています。

C先生:給湯器に必要な温度は、ヒートポンプでも、コジェネでも出せる温度なので、様々な方法がありうるのだ。

B君:効率の高さはエコキュートの方が高い訳で、なかなか攻撃しにくいはずなのだが。

A君:東京ガスの仮定、すなわち、エコキュートも火力発電による電気で動かすというありえないぐらい電気に不利な仮定を用いたとしても、二酸化炭素排出量で同等。IHは昼間動くので、もしもさらに普及すれば、火力発電の増設が必要になる。しかし、エコキュートの普及で深夜電力が必要となれば、やはり、原発の増設になるだろう。

B君:原発の増設には確かに反対が多いので、難しいことかもしれない。だから、電力会社としては、エコキュートも普及しすぎることは問題なのかもしれない。

C先生:エコキュートの問題に限らないのだが、将来、深夜電力は、とんでもないことになるかもしれないのだ。トヨタはすでに開発中であることを発表しているが、プラグインハイブリッド車が、そのうち、といってもかなり先のことになるだろうが発売される。この車は、今のハイブリッド車の数倍以上の電池を積んで、最初は電気だけで走る。そして、電池が空になったら、普通のハイブリッド車としてガソリンを使って動く。いずれにしても、車庫に入ると、コンセントに繋いで、電気を貯める。多くの場合、恐らく、深夜電力を使うことになる。こんな車が普及すると、深夜電力が足らなくなる。むしろ、昼間より夜に電力が必要になるかもしれないのだ。

A君:深夜電力料金が逆に高くなる可能性があるということですか。

B君:10年以内にそこまで行くことは無いだろうから、装置寿命が10年程度であるエコキュートを今買っても、そのような事態に遭遇して後悔することは無いだろう。しかし、電気の需要というものは、まさに、自動車というエネルギーの大食いのモノに対して、どんな餌を食わせるかという問題に大きく影響される。もしもプラグインハイブリッドが本命なら、相当大きな影響が出るだろう。

C先生:確かに、今エコキュートを買うのは、それほど不正解ではない。しかし、状況は流動的だ。10年後にエコキュートが正解だという保証はどこにもない。

A君:いずれにしても、原発をどのように考えるか。それを決める一つが深夜電力。多くの家庭でエコキュートを設置すると、電力会社に対して、原発を設置せよと命じているようなものだということは覚悟しておく必要はある。

B君:気候ネットワークは、どうも一般的市民団体がそうであるように、反原発の団体のようだ。「原子力発電所は、少なくとも20兆円近くの多大なコストを要するとも言われる使用済みの放射性廃棄物の管理・処理問題(バックエンド対策)について未解決であり、将来大きなリスクと経済的負担を残すという問題点を抱えている。加えて、万一の不慮の事故などの場合は、放射性物質の拡散などによる甚大な環境被害をもたらす危険性のある技術である。これだけ考えても、日本のエネルギー供給のあり方として、今後、原子力依存から脱却していくことは言うまでも無い」、と述べている。

C先生:代案があれば、脱原発も確かに一案。しかし、「脱却していくことは言うまでも無い」とまで言い切れるのか。いずれにしても、これから人口が減るのだから、電力の需給をどう考えるか、これは一般市民にとっても重大な課題だ。しかし、気候ネットワークのように、単に原発反対、ということだけで問題は解決しないように思う。

A君:気候ネットワークの最後の主張が、「電力会社は夏のピーク電力を支えるために、火力発電所などの建設をしなければならないが、オール電化(多分IHヒータを意図)を進めると、夏のピーク電力を抑える方向にはむしろ逆行する可能性があって、電力会社にとっても苦しくなるのではないか。すなわち、まずは、需要抑制措置を図るべきだ」。書いていないのですが、調理ぐらいにはガスを使うべきだ。ということのようです。

B君:電力会社もガス会社も企業なだけに、電力あるいはガスを多く売りたいのは当然。しかし、電力会社は、省エネを奨め、電力を売りたくないようなそぶりを示さなければならない。また、ガス会社は、エコジョーズのような効率の高い給湯器を開発すれば、売れるガスの量は下がる。このように、両方とも公共性の高い企業形態ゆえに、余り露骨に自らの商売の拡大を図れないという特性はある。そこで、わずかな増減を巡って過剰な競争をしている。

A君:しかし、両業種とも需要抑制には基本的に反対であることは、炭素税に対してどういう主張をしているか、からも分かる。

C先生:夏のピーク電力問題を解決しなければならないことは事実で、それには今や補助金が無くなってしまったが、再び太陽電池の導入を促進するのが良いのではないだろうか。できれば、非シリコン型の太陽電池が。それに、分散型電力であるガスエンジン型コジェネによる電力の買い上げを電力会社に義務化するのが良いように思える。

A君:燃料電池型のコジェネは技術的にも価格的にも無理なので、普及することを考える必要がない。しかし、ガスエンジン型は、もしも給湯需要が非常に大きければ、考えても良い方法ではある。そこでお奨めは、まっとうな手法としては、共同住宅へのお湯の供給。そして、個別ならいささか苦しいが冷房装置と合体したガスエンジン給湯装置。冷房装置は稼動させるとヒートポンプで高い温度をつくり、室外機のファンで高温の空気を外気に出している。これを水冷構造にして、得られた熱を給湯装置に送る。夏の昼間に動かすことが前提なので、それほどお湯がいらない家庭のような場合には無理だが、給湯需要の大きな業種、レストラン・給食センター・お弁当屋・風呂屋・ホテルなどでは可能なのではないか。いずれにしても、発電された電力は売電できることが前提。

B君:同じ事、すなわち、エコキュートで冷房機も兼ねることも有り得るのだが、昼間にエコキュートを動かすと、電化上手のような契約だと、高価な電力代を払うことになるので、それは考えもの。やはりエコキュートの運転は深夜電力で、が良いように思える。しかし、プラグインハイブリッドが普及するまでの話だが。

C先生:先日、理想の給湯器として、エコキュート+太陽熱温水器の合体製品であることを述べたが、これから先は、単品で存在している技術を合体させた形の装置が開発される方向なのではないだろうか。もっとも寿命がもっとも短い部分が装置全体の寿命を決めるのはまずいので、モジュール化をして、モジュールでの交換が可能にしなければならないが。

A君:モジュール化でしかもメーカーの壁を越えたような合体製品が望ましいですね。それには、規格を決めることが必要。そんなことができるだろうか。社会的な制約が大きそう。

B君:技術はあるが、それを製品にしたり、あるいは、製品の意味を高めるための社会システムの整備が大幅に遅れているのが日本の現状。

C先生:そろそろ終わりにしたいのだが、電力中研の反論については、ほとんど取り上げなかった

A君:極めて妥当なものなので。ただ、東京ガスの指摘のような将来のエネルギー供給のイメージまでは取り入れられていない。

B君:電力中研の報告書の中で、もっとも批判の対象にされたのが、気候ネットワークの報告書でp10の二酸化炭素排出量の推定。電力統計情報から、東京電力管内の2005年度のオール電化住宅と一般家庭のCO2排出量を比較していると称するところ。
 「一般住宅は従量電灯A・Bの契約をしている家を仮定し、平均年間消費電力量は3621kWh/世帯。オール電化住宅は選択約款・深夜電力契約をしているものと仮定して、18997kWh/世帯。その差をオール電化の温水器とIH用途とみなして、一般住宅ではそれがすべて都市ガスで賄われていると仮定すると、一般住宅では4187kg−CO2/世帯、オール電化住宅では、7067kg−CO2/世帯、と69%もの増加になる」、という部分。

A君:直ぐに分かることですが、これを比較する意味は全く無い。単身所帯でエコキュートを設置する人はまずない。オール電化の契約をしている世帯の大きさと、一般住宅の世帯の大きさが同じではない。

B君:電力中研の報告書では、その点を含め、矛盾を指摘している。選択約款の契約には、コンビニエンスストアが含まれるらしく、ここの電気消費は極めて莫大なので、平均値を引き上げているらしい。

A君:後は、東京ガスの仮定が妥当ではないという批判。すなわち、IHヒータが普及すると、その電力は火力発電所の電気になるという仮定を批判しているが、これは、どうも気候ネットワーク+東京ガスの方が、将来予測として正しいと言わざるを得ない。

B君:電力中研の考え方は、現時点での常識。極めて妥当。しかし、いささかつまらない。しかも未来観が無いとも言える。

C先生:最終結論もそのような性格ではあるが、まあ、正確とも言える。オール電化住宅の年間二酸化炭素排出量は、16%ぐらい少ない

A君:気候ネットワークの報告書は、確かに正確性を欠いており、推論の一部も科学的に妥当なものとは言い難いところがある。しかし、恐らく、一般市民が知らない事実の記述を多く含んでいて、この報告書の存在意義はある。オール電化をこれから採用しようとする一般市民は一読の価値あり。

B君:ただし、原発には最初から反対の立場の報告書であることは理解した上で読む必要はある。エコキュートを入れたら、「原発のお陰で安く上がっています」と感謝すべきで、「原発に足を向けて寝るのはどうか」、という機器なのも事実

C先生:中立的な情報を得て、それをもとに中立的な判断をすることは難しいものだ。何が中立的か、と言われると分からない部分もあるが、我々も、それなりに中立性を保ちたいと思っている次第である。
 最後に、電力会社とガス会社が猛烈な喧嘩状態の地域もあるようだが、そんなことをしている時代ではない。余りにも近視眼的である。日本全体のエネルギー世界戦略をもっと真剣に考えないと、そのうち、市民に見放される。本来有り得るべき結論は、「ガスと電気は補完的である」というものになるだろう。