お母さんが代わりに婚活しますとも――。そんな熱気がびんびんと伝わってくるようだ。大阪のホテルで6月にあった「親の見合い」。年配の男女合わせて130人余りが、大広間を歩き回る。番号カードを胸にさげ、プロフィル一覧表を握りしめて。
〈34歳大卒 会社員 長女 161センチ A型 趣味・旅行 安定した仕事をし、誠実な方を希望〉
〈41歳大卒 会社員 長男 164センチ O型 趣味・ゴルフ かわいく優しく家庭的な方を望む〉
ピンクのページが娘、青のページが息子。お目当ての番号の子の親にアタックし、身上書を交換する。
「うちの息子、男友だちは多いんです。少し髪が薄くてふけて見えますが」
「息子は、背は155センチです。すごくまじめです」
43歳の長男の「最後のチャンス」のつもりで来た父親(71)は、4人の母親に身上書を渡した。「仕事一筋で縁がなかったと思う。なんとか交際が始まってほしい」
介護の現場で働く34歳の一人娘のために来た母親(65)は「娘が仕事を続けられるように孫の世話をしてやりたい。そのためには1歳でも若いうちに結婚を」と願う。
親の見合いの「元祖」をうたう「親の縁は子の縁交流会」の参加者は7月、通算58回でのべ6300人にのぼる。00年に札幌市で始まり、13都道府県に広がった。参加者の娘の平均年齢は34歳、息子が38歳。この出会いで結婚したのは1割ほどだ。
東京の母親(74)はすがる思いで参加し、次男(43)の相手を見つけた。大学院を出た技術者で海外にひんぱんに出張する息子。縁談は30代半ばに途絶えた。「学校も会社も自分で決めたのに、結婚相手だけが見つからない。あせりました」
出てみると、同じ悩みを持つ親同士が意気投合。「この親御さんのお嬢さんなら、と。子ども同士、うまくいくことを祈りましょう」と何度念じたことか。息子は2年半で10人以上に会い、去年ようやく結婚にこぎつけた。
母親は言う。「わが子が熱を出して死ぬほど心配するような体験を、息子にはしてほしい。結婚を通して人は謙虚になり、成長できると思う」
交流会を主催する斎藤美智子さん(64)は「そう、私はお世話オバサンよ」と胸を張る。「恋愛体質じゃない子は結構いる。うちの子が結婚しない、と夜も眠れない親御さんは多い」。札幌で結婚相談所を営みながら、親のために駆けまわる。参加費1万円は会場費や資料代にあて、採算を度外視した活動と言っていい。
「親だったら、わが子がひとりで老後を過ごす姿なんて想像したくないですよね」
子を思う親の気持ちはわかる。だけど、結婚をあおりなさんな、と社会学者の伊田広行さん(49)はチクリ。「男女がひっつけば幸せになれるとか寂しくないとかは価値観のおしつけ。本人が決めることに親が介入できるはずがない」。モテないことに耐えて自立し、友情をはぐくみ、生きる道もある。「結婚、結婚と言う前に、人と深くつながる力をのばしてほしい」