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特集ワイド:NHK教育テレビが今、こ~んなことに

 アイドルの体当たり科学調査に、ビジネス雑誌のような教養番組--。NHK教育テレビが面白いことになっている。視聴者層を絞ってチャンネルの特徴を生かしたうえ、親しまれる工夫も凝らすようになったからだ。子供中心だった視聴者層は広がっていくのだろうか。【宮田哲】

 ◇アイドル科学もの、「へんてこ」幼児向けも

 「カラオケで100点満点とりた~い!」「ネコってなんで甘え上手なの~?」

 中高生向けの科学番組「すイエんサー」(火曜午後7時25分)のテーマは、高校生が携帯メールで交わす会話のよう。身近な願望や疑問について、アイドルグループ「AKB48」のメンバーが実験しながら答えを見つけていく。事前に答えは知らされず、自ら調べていくのがミソで、視聴者に科学的な思考のプロセスを楽しんでもらうのが狙いだ。村松秀プロデューサーは「学校で足りないのは考えること。その楽しさを知ってもらいたい」。「やば~い」という若者言葉がそのまま流れるくだけた演出も、親近感を持たれているようだ。

 東京都内での収録をのぞいた。テーマは「にらめっこに必ず勝ちた~い!!」。10月に前後編で放送する前編だ。交代で出演するAKBメンバー、今回は秋元才加さん(21)、倉持明日香さん(19)、近野莉菜さん(16)が登場。テーマを送った愛知県の小学3年生、佐野恵一朗君(8)も共に答えを考える。AKBメンバーらは事前に大学を訪れ、「顔の筋肉を鍛えれば変な表情ができるだろう」とヒントを得てスタジオに来た。

 「うわあ!」。入ってきたメンバーは全身黒タイツのエキストラ6人に声を上げた。「お待ちしてました」と先生役の早稲田大人間科学学術院助手の菅原徹さん。まずは顔の筋肉体操。黒タイツ姿の若者と共に全員で怒り顔、笑い顔などの表情を次々と作る。菅原さんが問いかけた。「悲しみ、怒り、驚き、笑顔の中で顔の筋肉を鍛えられる表情は何だろう」

 佐野君がモデルになり、表情ごとに顔の筋肉がどれだけ使われたかを機械で調べる。菅原さんは佐野君にさまざまな表情を実演させ、「天才!」と元気づけて計測へ。目を大きく開いて熱演する佐野君。測定された波形をみて「笑った時の顔が一番筋肉を使っています」と正しく答えると、AKBメンバーから「スゴーイ!」と拍手が起きた。

 アイドルたちは科学を楽しんでいるのか? 「知ることがたくさんあります」(秋元さん)「番組で路上インタビューを初めて経験しました」(倉持さん)「みんなと考えて解決するのは楽しい」(近野さん)と面白がっていた。

 すイエんサーの関東地区の視聴率は最高1・5%で、1%を超えることも度々。人気番組がひしめく午後7時台で、教育テレビとしては好調の部類に入るという。

 番組には毎週、メールやはがきが200通以上も来る。浜松市立浅間小の6年1組では児童33人中20人以上が見る。ジャンケンで勝つ方法を試すのが流行し、子供たちは取り上げてもらいたいテーマなどを寄せ書きして送った。担任の清水理志教諭(36)は「おもしろくて勉強になる点がいい」と語る。

  ■ ■

 いまNHKは、ティーンズ番組の強化を目指している。教育テレビは小学生までは見るが、中学生からは離れていくためだ。NHK放送文化研究所の08年11月の全国個人視聴率調査では、1週間に5分以上見た人の割合を示す週間接触者率で全体の28・5%を大きく上回るのは、7~12歳の男女(それぞれ49%、51%)。13~19歳になると男15%、女24%とがくっと落ちる。

 そこで今春の番組改編で午後7時からのティーンズ向け時間帯に、すイエんサーなどを投入した。今年は教育テレビの放送開始50周年にあたり、幅広い層をターゲットにしたキャンペーン「学ぶ冒険」も展開中。今春以降に始まった番組には一ひねりある。

 曜日別にテーマを設けた教養番組「知る楽」(月~木曜午後10時25分)では、木曜日に「仕事学のすすめ」を新設した。20~40代の会社員が働き方、生き方を考えるのに役立つ「ビジネス教養」番組。ファーストリテイリング社長の柳井正氏らビジネスの達人が、月替わりで知恵を伝授する「動くビジネス雑誌」の趣だ。9月は妻の看病をしてきた東レ経営研究所社長の佐々木常夫さんが、家事と仕事を両立させる秘訣(ひけつ)を語る。

 番組ファンの経営コンサルタント、山本忍さん(45)=堺市=は「時間が25分間と短く、ポイントがテロップで出るのがいい」。

 初の4、5歳児向け番組「みいつけた!」(月~金曜午前9時15分)は「変てこりん」なところがうけている。主人公はしゃべって動く「いす」。堤桂子プロデューサーは「小学校で座っていられない子供がいると聞いたので、いすと友達になってほしかった」と説明する。文部科学省の幼稚園教育要領を意識しており、旬の人も参加する。いす体操「なんかいっすー」の作詞は人気脚本家の宮藤官九郎さん。「森のいすまつ(石松)」など幼児に分かる?と思えるダジャレもあるが、保護者からは「私のツボには、はまります」。最後にはトータス松本さんが作った歌が流れる。

 テーマを絞った渋い番組もある。「佐野元春のザ・ソングライターズ」(土曜午後11時25分)。7月から今月末までの12回シリーズで、シンガー・ソングライターの佐野さんが、著名な歌の作り手に歌詞作りにこめた思いを聞く。今月5、12日は矢野顕子さんが登場。三溝敬志プロデューサーは「言葉にこだわってきた佐野さんが聞くから、胸を開いて話すのです」。

 「ひょっこりひょうたん島」などの名作を生み出した伝統の連続人形劇も、14年ぶりに復活する。三谷幸喜さん脚色による「新・三銃士」は10月12日から始まる予定だ。

  ■ ■

 教育テレビはなぜ変わったのか。すイエんサーの村松プロデューサーは「おもしろいものを打ち出そうとチャレンジできる場になっている。この空気は10年ほど前から、外部のクリエーターが番組作りに参加する中で醸成されてきたのではないか」とみる。一方、音好宏・上智大教授(メディア論)は「挑戦的な展開をしている」と認めた上で、04年以降に発覚した一連の不祥事が変化の一因になったとみる。「NHK職員は局内関係者からの番組評価を気にする傾向があったが、不祥事は視聴者の方を向かなければいけないことを改めて気づかせ、番組開発の活性化をもたらしたのではないか。ただ、教育テレビがやれることはまだ多い。もっと先鋭的な番組があってよいし、いろいろな層の人々のニーズに応える番組を作るべきだ」と指摘する。

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t.yukan@mbx.mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2009年9月9日 東京夕刊

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