西日本初の裁判員裁判は8日、神戸地裁で裁判員による砂野政雄被告(40)への被告人質問などがあった。被告の社会復帰に向けて、就職が実現できる可能性などについて、疑問解消を図る裁判員の質問が法廷に新たな風を吹き込んだ。【熊谷豪、高瀬浩平、後藤直義】
裁判員では最初に左端の男性が質問。「事件翌日から被告の子ども2人は世間の目にさらされている。どう考えるか」と尋ねると、砂野被告は「つらい思いをさせている」。疑問が残ったのか首をかしげる男性を見て、東尾龍一裁判長が「被告の言葉は伝わるが、言葉だけではないか。涙が出るくらいの思いなのかとの質問だと思う」と補足。砂野被告が「逮捕後に2人の子どもが面会に来た時は涙が止まらなかった」と答えると男性は納得した様子だった。
また左から2番目の男性は「私たちは検事と違い(借金返済の状況など)生のデータを頂いていない」として、借金や生活費のやりくりについて繰り返し質問。「食材費などは自分で出していたのか」と尋ねると、砂野被告は「そうです」と回答。一時はパチンコで稼ぐなどしたが、次第に行き詰まったと話した。しかし男性は「これだけの額の借金で生活できたはずがない」「入る部分と、出る部分が合えへん」と困惑した表情だった。
一方、最終弁論で「懲役3年、執行猶予4年が適切」と異例の“逆求刑”をした主任弁護人の西田雅年弁護士は、閉廷後の会見で「過去5年分の量刑を調べると、似たケースでは懲役3年、執行猶予4年の判決が多い」と説明。裁判員の被告人質問について「就職先を親せきに頼まないのは甘いなど、事件の本質を突いた質問や、予想以上に的確な質問があった」。視覚に訴える立証方法をとらなかったことには「視覚に訴えるのが良いかは個々の事件で、弁護人が判断すること」と述べた。
傍聴人の一人で、神戸市須磨区の自営業、石川正さん(36)は「もし自分が裁判員なら『被告は本当に更生できるのか』と追及したかった。家族内事件は裁判員が事情を聴きにくそう」。初傍聴という神戸学院大法学部1年、大下佳那子さん(18)=姫路市=は「検察側と弁護側の説明は分かりやすかった。検察側と弁護側、両方の意見を正しく感じたので、判断が難しそう」と話した。
また、犯罪被害者で「ひょうご被害者支援センター」の高松由美子理事(54)は「仕事やお金の話など、裁判員から率直な質問が出ていて良かった。被告にとっては、裁判員の質問の方が、法律家からの質問より身につまされる思いで忘れないのでは」と話した。
8日開かれた裁判員裁判で、休廷時間が予定の3倍に長引いた。再開後も東尾裁判長から説明はなく、傍聴人からは「理由を説明してほしい」と疑問の声が上がった。検察側の被告人質問を終えた際、裁判長が10分間の休廷を宣言。検察・弁護側と大半の傍聴者は10分後に法廷に戻ったが裁判長らは現れず、砂野被告も裁判員からの初の質問を前に緊張した表情で待ち続け、約20分遅れで再開。裁判長からは理由の説明はなく、閉廷後に毎日新聞が地裁側に理由をただしても「審理上の理由」と、具体的な回答はなかった。【吉川雄策】
〔神戸版〕
毎日新聞 2009年9月9日 地方版