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おかやま大研Q:全共闘とは何だったのか 異議申し立てること /岡山

 1984年を舞台にした村上春樹さんの小説「1Q84」の次は「1968」か。書店では68年を軸とする学生運動を扱う書籍があふれている。あれから40年余り、社会の一線を退いた「全共闘世代」を筆頭に当時を回顧することがひそかにブームのようだ。運動の当事者を訪ね、聞いてみた。あなたにとって「あの闘争」とは何だったのですか。【石戸諭】

 □岡山、1969年□

 全共闘(全学共闘会議)は60年代末期、全国各地の大学で結成され、大学紛争で中心的な役割を果たした。

 岡山では4月、岡山大全共闘による40周年集会が開かれた。岡大闘争は、ベトナム反戦運動や70年安保闘争まっただ中の68年9月、自衛隊による弾薬輸送反対デモで学生が逮捕された事件が発端だった。学生側は大学当局に県警への抗議などを求めたが、「誠意ある対応が得られなかった」としてストライキを決行する。闘争は約1年間に及んだ。

 医学部全共闘だった医師、市場尚文さん(62)=岡山市=は「全共闘とは、異議を申し立てること。唯々諾々と大学生活を過ごしていいのかと学生個々に問うていた」と振り返る。市場さんによると、当時の学生の間にうっ積していた不満が爆発した。「大学の自治といっても教授たちが勝手に決める。その教授たちも、ノートを読むだけの授業。何のための大学、勉強なのか」(市場さん)。デモには常に、2000~3000人以上の学生が集まったという。

 69年4月12日午前5時半過ぎ。県警機動隊と学生が衝突。県警は学内で起きた傷害事件の捜索で、夜明けとともにバリケード封鎖された構内に突入した。ヘルメット姿の学生たちが東門などを机や椅子で封鎖し、投石で抵抗した。この闘争で26歳の警官が1人死亡。翌13日付の毎日新聞朝刊は岡大闘争を一面で報じている。

 □それぞれの闘い□

 会社役員の加納洋一さん(60)=岡山市=は、3人の子供を育て、今では政治活動から足を洗った“普通のオヤジ”だ。岡大闘争では、東門で先頭に立って投石に加わったという。「あのころは独特の衝動とか高揚感があった。語弊があるかもしれないけど楽しかった」。京都や東京・新宿にも“転戦”し、一時赤軍派とも行動を共にしていたことがある。連合赤軍によるリンチ殺人事件で72年に死亡した行方正時(当時22歳)は、岡山大の同級生で友人だった。

 加納さんは20歳になる直前の69年4月、闘争の中で逮捕、誕生日を迎えた5月に起訴される。裁判で実刑が決まり、岩国少年刑務所に収監された。以降の全共闘を取り巻く動きは知らない。「当時の幹部連中はみんな大人だと思ったけど、やっぱり若いわ。自分たちの教条や口先に縛られすぎていた。ナメ(行方)も死んだし、切ないね」

 加納さんは出所後、岡大を中退して結婚。食べるために「土建屋になった」という。人生哲学は「まず、自前で食べること。どんな職場でも、口先だけではなく、しっかり仕事をすること。盲目的に正義や理想を信じないこと。しかし正義や理想を決して捨てないこと」。全共闘時代の経験から得たものだ。

 一方、市場さんは「全共闘には遺産がある」という。「全共闘を通じて、社会とのかかわり方を学んだ人は多いはず。環境とか男女平等とか。あの時代を通じて今ある運動が出てきて、広がったのではないか」。市場さん自身、岡大医学部卒業後、小児科医としてキャリアを積む傍ら、公害やジェンダーといった市民運動にかかわり続けている。

 市場さんは「40周年集会」の発起人も務めた。「24人が集まりました。20周年は100人ちょっと集まったのですが。年齢もあるのかな。みんな少しおとなしくなったというか。でも当時の思いを、それぞれ今の立場で生かせばいい」

 □68年と現代□

 この夏、人文系出版界の話題をさらった書籍がある。慶応大の小熊英二教授(社会学)の「1968」(新曜社)。上下巻計2000ページ以上に上る大作だ。小熊教授は著書の中で、学生たちの反乱をこう説いて見せている。「現代的な生きづらさの端緒が出現し、若者たちがその匂いをかぎ取り反応した現象だった」。現代的な生きづらさとは、高度経済成長期に入り、明日の食べ物にも事欠くといった貧困から抜けだし、先進国化する中で起きた「空虚感や閉そく感だった」と小熊教授は指摘する。自分とは何か、学ぶ意味はあるのか。こうした問いに初めて直面したのが68年を生きた若者だったという。彼らは、今風に言えば「自分探し」にぶつかっていた。あの時代の若者が時代の生きづらさにぶつかり、自分とどう向き合ったのか。失敗も含め、60年代から学ぶことはまだまだありそうだ。

毎日新聞 2009年9月9日 地方版

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