今や全国標準となったユニークな選挙スタイル「自転車街宣」の元祖・河村たかし名古屋市長が天白区平針字黒石に広がる里山を訪ねたのは、当選を決めた4月26日の直後、5月10日のことだった。およそ2時間の視察を終えた市長の感想は「ここはなんとか残さないかんわな〜」という率直なものだったという。9月6日、専門家らがその里山で実施した学術調査に同行してみた。
右から2人目調査の解説をする八田耕吉・元名女大教授。左から2人目宗宮弘明・名大教授。(9月6日撮影筆者)
大量の農薬や化学肥料を使わず「戦前からの農法」をかたくななまでに守り、耕作してきた所有者が亡くなった昨年、開発業者が約5haの土地を買収した。
愛知でなら、誰でも一度は試験を受ける「平針運転免許試験場」の西に広がる一帯は、奇跡的に農薬汚染を免れた在来植物などが繁茂する「水田やため池、湿地に雑木林」が広がり、日本の原風景といえる里山が1セットになっている。
湿地で標本採取や記録を取る調査団
この問題で住民側は、業者は「分譲地」として開発許可申請を出しているが、実態は「宅地分譲地並びに私立小学校用地の開発」の虚偽申請だとし、更にいくつかの問題点を挙げ、名古屋市に再審査などの要請をしている。
これを受け市長は「許可」を保留しているが、公園や緑地には指定されていない市街化地域のため、市長が「判を押せば事業開始」というところまで来ている。市は対策として買収を前提に調整を図っているようだが、解決の道は不明のままだ。
しかし生物多様性条約締結国第10回会議(COP10)の名古屋市開催を来年秋に控えた市長にとって、大都市にわずかに残された「伝来の身近な自然を残せる」か、それとも「開発を優先する」か。就任以来、明確な業績がないだけに、悩ましい問題ではあろうが、決断次第では後世に残る功績となる可能性も高い。
生物多様性とはありふれたものがいろいろいること。
そんななか、里山保存を訴える「平針の里山保全連絡協議会(代表:宗宮弘明名大教授)」宛てに1通の封書が届いたという。日付は09年7月12日。差出人は「隣のトトロ」の宮崎駿監督だった。以下、原文のまま転載させていただく。
平針の里保全連絡協議会のみなさんの活動を心から応援します。
淵の森の会長 宮崎駿
人口が増える時代はすぎました。都市が拡っていく時代もおわろうとしています。
今は虫くいのバラバラになった国土を再建する時代に入っています。
乱開発してしまった土地を、人間といきもの達にすみやすい空間につくりなおす時代です。
私達は、東京の東村山市と埼玉の所沢市の境界で、わずかに残った林を育てる活動をしています。
遠くはなれていますが、志はひとつ。どうかみなさん、智恵と力とお金をあつめて、時間をかけて、少しでも良い結論にたどりつくよう奮闘して下さい。
◇
続いて、地元の方の声を紹介しよう。
ぐるっと回って30分くらいのコンパクトな場所に奥山・ため池・棚田と里山の景観が楽しめます。木々の間をぬけると 目の前は急に開けて 駐車場・マンション・真新しい家々に驚きます。
平針運転免許試験場は名古屋市のはずれにありますが 昼間は10分刻みで市バスが 乗降する人が 免許証書き換えの車が 行き交う交通量の多い所です。その近くに 里山が残っていたのは 奇跡としか思えません。
よくぞ残ってくれたこの里山、何とかこのまま次の世代に引きつがなくては・・・。そんな思いで署名や募金を集めながら里山のPR活動をする毎日です。是非、平針の里山保全連絡協議会のHPを見て下さい。 貴舩育子
どんどん開発が進み、ごくありふれた自然とも隔離されつつある都会の暮らしにとって、多様な自然がまとまって残った緑地は、たとえ規模が小さくても貴重な存在だ。子供たちの環境教育の場として、また気軽に自然に触れ合える場として、残すべき価値があると思うが、果たして市長はどんな最終決断を下すのか?引き続き、今後の動向を追いたい。
(下の写真はクリックで拡大します)
当選から2週間後・超多忙な時期に河村市長が視察。以下、撮影:向 真佐代
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都会のど真ん中に「トトロの森」が!!
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地下鉄の駅から車で7分。周辺ではマンションや住宅が続々建設中
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