きょうの社説 2009年9月9日

◎新潟知事の「反乱」 開業遅れれば責任問われる
 北陸新幹線長野―金沢(白山総合車両基地)の建築認可をめぐる問題がこじれにこじれ 、既定路線であったはずの2014年度の金沢開業に黄信号がともり始めた。「火元」はやはり新潟県で、関係4県のうち、同県だけが認可の受け入れを渋っているのだ。国土交通省が同県の泉田裕彦知事に早期回答を求める文書を送付しても、泉田知事は国交省批判を展開するだけで、歩み寄る気配すら見せない。

 建築認可の後に鉄道建設・運輸施設整備支援機構から一部の工事を請け負うJR東日本 と西日本は、9月末までに着工できなければ期限内の完成は保証できないとしている。仮に、泉田知事がこのまま「反乱」の旗を降ろさず、開業遅れが現実のものとなれば、他県ばかりではなく、上越市など新潟県内の一部自治体関係者からも責任を問われることになろう。

 新潟県はこれまで、上越―富山や白山総合車両基地の工事認可を受け入れ、昨年度まで は北陸新幹線整備費の地元負担にもすんなりと応じてきた。にもかかわらず、泉田知事は今年に入ってから豹変し、自説が通らなければ「開業遅れもやむなし」「遅れたら国のせい」と言わんばかりの行動を繰り返している。同知事にもそれなりの言い分はあるのだろうが、私たちには「霞が関バッシング」をよしとする風潮に迎合しているだけにしか見えない。

 建築認可が遅れているため、政府の今年度補正予算で北陸新幹線整備費として計上され た475億円も宙に浮いている。民主党は、衆院選で掲げた施策の財源を捻出するために補正予算の未執行分や未交付分の執行停止を検討しており、このままではせっかくの整備費もやり玉に挙げられる恐れがある。

 加えて、近く発足する民主党政権の下で、泉田知事の主張が「沿線の考えを代弁するも の」と曲解され、来年度予算編成で北陸新幹線を「不要不急」と見なす口実に利用されることも懸念される。石川県の谷本正憲、富山県の石井驤齬シ知事らは危機感を持って泉田知事の説得に当たるとともに、民主党に対しても声を大にして新幹線の有用性を訴えてほしい。

◎温室ガス中期目標 「25%減」には無理がある
 民主党の鳩山由紀夫代表が表明した温室効果ガス排出削減の中期目標について、経済界 などから反発や懸念の声が高まっているのも当然だろう。民主党のマニフェスト(政権公約)にも盛り込まれた「1990年比で25%削減」という目標は、現政権の数値を大きく上回り、企業や家計への負担が極めて大きなものになることが予想されている。

 鳩山代表は「すべての主要国の参加による意欲的な目標の合意がわが国の約束の前提に なる」と条件付きであることも強調したが、今月下旬の国連気候変動首脳級会合で目標値を表明する考えを示しており、それが「国際公約」になれば日本として引っ込みがつかなくなる恐れもある。

 そもそも、民主党の数値目標を達成するために負担がどれほど増えるのか具体的には提 示されていない。国民の理解も十分でないまま、これから経済活動や生活に大きな影響を与える数値をいきなり国際舞台に持ち出すのは乱暴ではないか。新首相となる鳩山代表には国民の疑問や懸念に丁寧にこたえる責任がある。

 鳩山代表が都内での環境問題のシンポジウムで明言した「25%削減」はその中身も実 現までの道筋もはっきりしていない。政府目標の「05年比15%減(90年比8%減)」は海外からの排出枠購入分などを含めず、国内削減分だけを算入したが、民主党案をすべて国内削減分で賄うと仮定すれば、光熱費の上昇などで1世帯当たりの負担増は年間36万円との政府試算もある。一定量を海外からの排出枠で補えば今度は膨大な財政負担が伴い、いずれにしても目標達成は容易ではない。環境産業育成などにつながる利点は分かるとしても、国民に負担の覚悟を求めようとするなら、まずマイナスの影響を客観的なデータで示すことである。

 日本が率先して厳しい数値目標を掲げても、膠着状態の続く国際交渉で主導権が握れる との保障はない。温暖化に関する交渉は国益が激しくぶつかる冷徹な外交の現場である。数値の比較でもって理想だけを先行させることの危うさを次期政権は肝に銘じてほしい。