vol.175 皇室典範議論の行方C〜皇室は最後の抵抗勢力!?
これまで日本の歴史には、強大な政治権力を手中に収めた政治家がいました。
だが、平清盛・源頼朝・足利義満・織田信長・豊臣秀吉・徳川家康ですら、自らが皇位を手に入れることはもちろん、万世一系の皇位継承原則を変更した者はいません。
しかし、日本の建国から二千六百六十五年が経過した平成の御世(みよ)で、小泉総理は皇室制度の根幹である皇位継承原則にメスを入れようとしたのです。
いった小泉総理は、皇室に対するどのような思想に基づいて女系天皇を成立させようとしたのでしょうか。
その答えは、私が懇意にしている自民党のある国会議員から知らされた情報に見出すことができます。
秋篠宮妃(あきしののみやひ)御懐妊が発表される直前の、皇室典範改定問題が最も激しく議論されていた最中の平成18年1月、小泉総理が自民党幹部と会合を持った際に、総理は「今国会で皇室典範改正案を必ず上程する。典範改正は構造改革の一環だ」と述べたあと、少し声を潜めて、静かに、しかし力強く「皇室は最後の抵抗勢力」と言ったというのです。
さらに、その場にいた自民党幹部の一人が「では、皇室典範改正法案が国会で否決されたらまた解散ですか」と聞くと、総理はかすかににやけた表情を見せ、大きく片手を挙げ、何も答えずに退席したため、その場に居合わせた自民党の国会議員たちは、「皇室典範改正」を覚悟したといいます。
小泉総理は平成17年に郵政民営化の是非を問う「郵政解散」を断行し、圧倒的な勝利を収めたばかりでした。
もし秋篠宮妃御懐妊がなく、国会で皇室典範改定法案が否決されたなら、日本の憲政史上前例のない、女系天皇の是非を問う「皇室解散」が現実のものになっていた可能性があったことになります。
小泉氏が「自民党をぶっこわす」と言って総裁選を勝ったことは有名ですが、もしかして自民党だけではなく、皇室をも「ぶっこわす」つもりだったのでしょうか。
それは、日本そのものを壊すことを意味します。
もし女系天皇なるものが成立した場合、それは最早天皇ではありません。
女系天皇成立は皇統の断絶を意味します。
女系天皇を成立させることが、「皇室をぶっこわす」最も近道なのです。
皇室を政局に利用することは、絶対に許されるべきではありません。
しかし、「皇室をぶっこわす」つもりの人に、この理屈は通じないでしょう。
小泉総理をはじめ、複数の政治家と政府関係者が「女系天皇は陛下の御意思」であるという発言を繰り返しました。
皇室典範問題は立派な政治課題であり、この発言は真偽に関わらず、皇室の政治利用に当たります。厳しく非難されなくてはいけません。
重要案件ごとに総理や官僚が「陛下の御意思」を持ち出して反対意見を封じるようなことが起きれば、国民主権は機能しなくなります。
小泉総理は平成18年2月3日、記者団が「皇室典範改正で皇室の意向は聞いているのか」と質問したのに対し、総理は「有識者会議で聞いておられると思う。直接ではなくても。賛成、反対を踏まえての結論だ」と発言し、法案は皇室の意向を踏まえたものとの認識を示しました。
また、「週刊新潮」平成18年2月9日号によると、武部勤幹事長は1月17日夜、キャピトル東急ホテルで行われた、全国都道府県議会議長会と自民党三役との懇親会で「とにかく(皇室典範改定)法案は今国会で絶対に成立させなくてはならない。これは陛下のご意志だ。そもそも、こんなことを国会で議論すること自体、不敬な話なんだ」と発言したといいます。
それだけではありません。
有識者会議を統括する責任者である細田博之国対委員長も、「女系は陛下の御意思」と吹聴して回り、議員たちに圧力をかけていたといわれています。
つまり、総理・幹事長・国対委員長が三人揃って「陛下の御意思」を利用しているのであり、ここまでくると、皇室の政治利用は確信的であると指摘せざるを得ません。
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