vol.170 憲法第三条【内閣の助言と承認】@天皇不親政の原則
今回から新しい条文に入っていきましょう。先ずは条文を見ていきます。
日本国憲法第三条【天皇の国事行為に対する内閣の助言と承認】
天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。
天皇の国事行為に対して、内閣が、「助言と承認」を与えるという趣旨の条文です。
内閣の意思は閣議決定によって決められますので、「助言と承認」の決定も閣議によって決められることになります。
この条文により、天皇は単独で国事行為を為すことができません。
しかし、このようなありかたは、何も戦後になってできた新しいものではなく、歴史的な天皇のありかたというべきでしょう。
天皇は直接政治に関わらないことを原則とします。これを「天皇不親政の原則」といいます。
歴史的に、天皇が直接政治をお執りになることは、むしろ珍しいことでした。親政をされたのは天智天皇(てんじ・てんのう)・天武天皇(てんむ・てんのう)など、数えてみても多くはありません。
今から一番近い時期に天皇が直接政治をお執りになったのは、幕末の孝明天皇(こうめい・てんのう)です。それ以前となると、後醍醐天皇(ごだいご・てんのう)までおよそ七百年遡らなくてはいけません。
古代においては合議制でした。
それがやがて蘇我氏や藤原氏などの有力な豪族が政治を担当するようになります。
さらにそれが制度化されたのが、摂関政治です。天皇は政治の最高責任者である摂政や関白を任命することになります。
中世に入ると武家政権が成立し、朝廷から政治が切り離され、幕末に至ります。
七百年に及ぶ武家政権の時代であっても、政治の最高責任者である将軍は、天皇から任命されてきました。
そして明治時代にこれまでの太政官(だじょうかん)制度が廃止され、大日本帝国憲法が成立すると、政治の最高責任者は内閣総理大臣と呼ばれるようになり、やはり天皇がこれを任命しました。
現在の憲法においても、政治の最高責任者である内閣総理大臣は天皇に任命されます。
いつの時代も、政治の最高権力者は天皇が任命してきたのです。
天皇が一旦政治の責任者を任命すると、天皇が直接政治に関わることはありません。
戦前までは天皇主権の時代で、天皇が自由に政治を動かしてきたと勘違いする人がいますが、これは大きな間違いです。
戦前でも、天皇は政治に関わる存在ではありませんでした。
帝国憲法においては、国務事項は各国務大臣が「輔弼(ほひつ)」し、また軍令事項については軍令部長と参謀総長がそれぞれ「輔翼(ほよく)」することになっていました。
輔弼とは、国事事項について各大臣が天皇を助けることを意味し、また輔翼とは、軍令事項について軍令部長と参謀総長が天皇を助けることを意味します。
各大臣がそれぞれ天皇を助け、責任を取るというのは、内閣が一括して天皇を助ける現在の憲法の規定とは若干異なりますが、天皇が政治に直接関わらないことは変更されていません。
帝国憲法下における確立された慣行によると、政府と統帥部(軍部)が決定した国策事項について、天皇はこれを覆す権能を持たなかったのです。
ですから、現在の憲法で、天皇の国事行為には内閣の助言と承認が必要であると規定されているのは、自然であり、むしろ歴史的な天皇の統治のあり方をそのまま表しているというべきでしょう。
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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