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vol.167 履中天皇@【古事記、第五十話】
 大雀命(おおさざきのみこと)(仁徳天皇、にんとく・てんのう)の子の伊邪本和気命(いざほわけのみこと)は伊波禮之若桜宮(いわれのわかさくらのみや)(奈良県桜井市)で天下を治めました。第十七代履中天皇(りちゅう・てんのう)です。

 この天皇(すめらみこと)が、葛城之曾都毘古(かづらきのそつびこ)の子の葦田宿禰(あしたのすくね)の娘、名は黒比賣命(くろひめのみこと)を娶(めと)って生んだ御子(みこ)は市辺之忍歯王(いちのべのおしはのおう)。
 次に御馬王(みまのおう)。
 次に妹の青海郎女(あおみのいらつめ)。またの名は飯豊郎女(いひとよのいらつめ)の三柱(みはしら)です。

 当初、難波宮(なにわのみや)(大阪市東区)(父、仁徳天皇の宮)にいらっしゃった時、大嘗(おおにえ)(新嘗祭のこと)の後の豊明(とよのあかり)(宮中での御酒宴)で、天皇(すめらみこと)は大御酒(おおみき)をお呑みになり、浮き浮きしたよい気持ちになって、お眠りになりました。
 するとその弟の墨江中王(すみのえのなかつみこ)(仁徳天皇の御子で、履中天皇の同母弟)が、天皇(すめらみこと)を殺そうと思い、御殿(ごてん)に火をつけました。
 そこで、倭漢直(やまとのあやのあたえ)(帰化氏族の一つ東漢氏・やまとのあやうじ)の祖である阿知直(あちのあたえ)が天皇(すめらみこと)をこっそり連れ出して、御馬(みま)にお乗せてして倭(やまと)へ逃れました。
 天皇(すめらみこと)は、多遅比野(たじひの)(大阪市羽曳野市)に着いたところでお目覚めになり、「ここはどこか」と仰せになったので、阿知直(あちのあたえ)は、
 「墨江中王(すみのえのなかつみこ)が御殿に火をつけましたので、倭(やまと)に逃げているのです」
 と申し上げました。
 そこで天皇(すめらみこと)は次の歌をお詠(よ)みになりました。

 多遅比野(たじひの)に 寝むと知りせば 立薦(たつごも)も 持ちて来ましもの 寝むと知りせば

(現代語訳)
 多遅比野〔たぢひの〕で寝ると知っていたら、カーテンくらいは持って来たものを。寝ると知っていたらなら。

 暗殺を逃れて避難する天皇が目を覚ました途端に
 「多遅比野〔たぢひの〕で野宿をするということを知っていたなら、カーテンくらいは持って来たのに、、、、」
 と、ユーモア溢れる歌をお詠みになったのですから、きっとこれを聞いた付き人たちは大笑いしたことでしょう。
 暗殺から間一髪のところを逃れる最中ですから、関西人だったら、突っ込みを入れたくなるような歌です。

 波邇賦坂(はにふざか)(大阪府羽曳野市にある坂)で難波宮(なにわのみや)の方を見ると、その火はなおも燃えていました。
 そこで天皇(すめらみこと)は次の歌をお詠〔よ〕みになりました。

 波邇賦坂(はにふざか) 我が立ち見れば かぎろひの 燃ゆる家群(いえむら) 妻が家(いえ)のあたり
(「かぎろひの」は「燃ゆる」の枕詞)

(現代語訳)
 波邇賦坂(はにふざか)に私が立って眺めれば、多くの家が盛んに燃えているのが見える。妻の家の辺りだ。

 そして、大坂山(おおさかのやま)のふもとまでやってきた時、一人の女人(おみな)に出逢いました。
 その女人(おみな)は、
 「武器を持った大勢の人たちが、この山を塞(ふさ)いで通れなくしています。当岐麻道(たぎまち)(奈良県葛城市當麻に至る竹内街道)から廻ってお進みになるのがよいでしょう」
 と申し上げました。
 そこで天皇(すめらみこと)は次の歌をお詠〔よ〕みになりました。

 大坂(おおさか)に 遇(あ)ふや嬢子(おとめ)を 道問へば 直(ただ)には告(の)らず 当岐麻道(たぎまち)を告(の)る

(現代語訳)
 大坂(おおさか)で出逢った乙女(おとめ)に道を尋ねると、真っ直ぐに行けとは言わずに、遠まわりになる当岐麻道(たぎまち)を行けという。
 そして、当岐麻道(たぎまち)を上り進み、石上神宮(いそのかみのかみのみや)(奈良県天理市の石上神宮(いそのかみ・じんぐう))にお着きになりました。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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