vol.161 憲法第二条【皇位の継承】I天皇及び皇族の制約
  皇室典範は、天皇と皇族に一定の特権を認める反面、基本的人権を大幅に制限しています。
 第158回(憲法第二条【皇位の継承】H天皇及び皇族の特権)で、特権について述べましたので、今回は、基本的人権が制限されていることについてまとめます。
 皇室典範は、天皇および皇族の人権を次のように制限しています。重要な点を抜粋して紹介します。
 まず、天皇および皇族は養子をすることができません(典範9条)。一般国民は民法の規定により自由に養子をすることができますが、これが禁止されているのです。
 これは、国民から養子をとることは、我が国の皇室にはふさわしくないからです。皇族が民間人から養子をとった場合、その人物が皇族になってしまうのです。
 男性皇族は皇位継承権を持ちますので、養子を禁止しておかないと、民間人が天皇になってしまう可能性があるので、皇族の範囲を厳密に規定しておくことが必要なのです。
 次に、天皇および皇族には結婚の自由がありません。
 天皇の婚姻(こんいん)と、皇族男子の婚姻は皇族会議の決議を経る必要があります(典範10条)。一般国民は一定の年齢に達していれば、民法の規定により、当事者同士の意思により婚姻が成立しますが、天皇と皇族男子は、当事者同士の意思だけでなく、皇族会議の決議を経なくてはいけません。
 皇族会議とは、内閣総理大臣が議長を務め、その他に三権の長と皇族が加わる会議で、皇室に関する重要な取り決めをする役割を持っています。
 このような結婚の制限は、天皇と皇族男子が結婚する相手は、民間人であっても、婚姻とともに皇族の身分を取得し、しかも将来生まれる男子は皇位継承資格を持つことになります。
 もし、天皇が外国人と婚姻した場合、目の青い皇太子が成立する可能性もあります。果たして外国人とのハーフが天皇に即位することが適切かどうか、議論の分かれるところでしょう。
 そのため、天皇が「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」であることに鑑み、天皇と皇族の婚姻は制限されるのです。
 ところが、皇族女子の婚姻については、皇室会議の決議を経なくてよいのです。なぜなら、皇族女子は結婚とともに皇族の身分を離れるからです。
 また、天皇および皇族は戸籍法や住民基本台帳法の適用を受けず、そのかわり、天皇と皇族のための戸籍ともいうべき「皇統譜(こうとうふ)」に記載されます(典範26条)。
 これは、天皇及び皇族の戸籍は、一般国民よりも多くの事項を記載する必要があり、また一般の戸籍よりも厳格に管理され、永久に保存する必要があるための措置です。
 しかしこれにより、天皇及び皇族は、役所で住民票や戸籍謄本、そして印鑑証明書を受けることができません。想像するだけでも不便でしょう。
 またこれに関連していうと、公職選挙法付則2項に「戸籍法の適用を受けない者の選挙権及び被選挙権は、当分の間、停止する」とありますので、天皇及び皇族の選挙権と被選挙権は認められていません。
 そして、天皇及び皇太子・皇太孫を除く皇族は一定の手続きを経て皇族を辞めることができますが、天皇は天皇を辞めることができず、皇太子及び皇太孫も皇族を辞めることができません(典範11条)。
 その他、法律上の規定はありませんが、天皇及び皇族に職業選択の自由はなく、表現の自由や言論の自由、そして思想信条の自由も制限されます。住居移転の自由や旅行の自由もありません。
 このように天皇及び皇族の人権は、一般国民と比べると大幅に制限されています。これらは、天皇が「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」であること、そして皇位が世襲(せしゅう)であることからして、必要な措置なのです。
 天皇及び皇族はこのような制限を受けながらも、一般国民が負う義務も負わなくてはいけません。その代表が納税の義務です。
 皇族であっても、出版物の印税や講演料収入などは税務署に申告し、所得税を納める義務がありますし、相続税も逃れられません。
 今上天皇も昭和天皇から譲り受けられた遺産に対して、相続税をお納めになりました。
 しかし、これほど人権が制限されるとかわいそうに思う人もいるかもしれません。「人権侵害」だという人もいるでしょう。
 ところが、先ほど述べたとおり天皇は天皇を辞めることができず、皇太子と皇太孫は皇族を辞めることができませんが、その他の皇族は、皇族を辞めることができます。
 辞めることができるにもかかわらず、不自由な生活をされながらも、皇族としてのお役割を全うされることに意味があるのではないでしょうか。
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