「天皇と環境」というと、何の関係があるのか不思議に思う人も多いことでしょう。しかし、天皇と環境は極めて密接な関係で結ばれているのです。
日本人の環境観を語るためには、天皇の御存在を無視することはできません。ではどのように関係しているのか、考えてみましょう。
日本人は環境問題に対する感覚が鋭いといわれます。
それはそのはず、日本人は四季のある自然の豊かな島国で、縄文時代から大自然との付き合い方の作法を模索しながら何千年も営みを続けてきたからです。
世界には、一年中夏だったり、一年中冬だったり、四季が全く無い、もしくはほとんど無い国がたくさんあります。また、国土のほとんどが砂漠だったり、荒地だったりする国もあります。
わが国のように国土のほとんどが豊かな森に囲まれ、豊富な水をたたえ、大自然が四季折々の変化を見せるような国は世界中で極めて少ないのです。
日本人の宗教観の原点は大自然への感謝の気持ちです。我々の祖先は、自然の恵みを頂いて「生かされている」と考えて生きてきました。そして大自然に感謝し、恐れ、そして大自然を正しく利用してきたのです。それが神道に発展したと考えてよいでしょう。
皆さんは神社にどのような神様が祀られているか考えたことはありますか?
神社のなかには、菅原道真や徳川家康といった歴史上の人物を祀る神社もありますが、大半の神社は大自然を神として祀っています。
たとえば、太陽の神、海の神、風の神、月の神といった具合です。つまり、神様の本質は大自然・宇宙なのです。
天皇の御役割を一言でいい表すことは難しいですが、「天皇は祈る存在」といえば大きく外れることはないでしょう。
歴史的に宮中祭祀の中心にあるのは新嘗祭(にいなめさい)、つまり五穀豊穣を感謝する祭りです。
また、天変地異が起きると、歴代の天皇は宮殿の奥深くで自らの不徳を詫びることを繰り返してきました。
天皇は国民一人一人の幸せを「祈る存在」として、人間界と自然界の接点にいらっしゃいます。我が国はこのような君主をおよそ二千年頂いてきたのです。
天皇陛下が毎朝御拝をなさる、宮中で最も神聖な場所・賢所に祀られているのは、太陽神・天照大御神です。
万物の恵みの根源である太陽、これを拝むということは、つまり大自然を崇拝するということなのです。
日本は「和の国」といわれますが、和とは調和の和です。そして調和とは、人と人、国と国だけでなく、大自然と人間社会の調和をも意味し、日本人はこれを大切にしてきました。それが近年世界に注目された「もったいない文化」を生んだのです。
それに対して欧米は、大自然を管理するという思想の元で発展してきました。物質的に豊かな現代社会を生んだのはその考え方の賜物でしょう。
近年は日本人の発想は世界的に注目されつつあります。日本人のモノを大切にする感覚や、江戸に代表される循環型社会の発想などは、地球規模の環境問題を解決するための鍵になるのではないでしょうか。