vol.156 仁徳天皇D【古事記、第四十八話】
天皇(すめらみこと)(第16代仁徳天皇(にんとく・てんのう))はその弟の速総別王(はやぶさわけのみこ)(仁徳天皇の異母弟)を仲人(なこうど)として、庶妹(ままいも)の女鳥王(めどりのみこ)(仁徳天皇の異母妹)に求婚しました。
すると、女鳥王は、速総別王に次のようにいいました。
「大后(おおきさき)の石之日賣命(いわのひめのみこと)の御気性(きしょう)が激しいことが原因で、八田若郎女(やたのわきいらつめ)を迎えることもおできにならないほどなので、私にはお仕えできないと思います。私はあなたの妻になりましょう」
これにより、女鳥王(めどりのおう)は天皇(すめらみこと)ではなく、速総別王(はやぶさわけのみこ)と結婚することになってしまったのです。
このようなわけで、速総別王(はやぶさわけのみこ)は天皇(すめらみこと)の元に報告に戻りませんでした。
そこで天皇(すめらみこと)は女鳥王(めどりのみこ)のいる所に直接お出かけになって、その御殿の戸口の敷居(しきい)の上にお座りになりました。
このとき女鳥王(めどりのみこ)は機織(はたお)りの前に座って服を織っていました。
そこで天皇(すめらみこと)は次のように歌をお詠(よ)みになりました。
「女鳥(めどり)の 我が王(おおきみ)の 織(お)ろす機(はた) 誰(た)が料(たね)ろかも」
(現代語訳)
「私の女鳥王(めどりのみこ)が織っている機(はた)は、誰の服にするものだろうか。」
すると、女鳥王(めごりのみこ)が次のように答えて詠みました。
「高行(たかゆ)くや 速総別(はやぶさわけ)の 御襲料(みおすいがね)」
(「高行く」は「隼(はやぶさ)」の枕詞)
(現代語訳)
速総別王(はやぶさわけのみこ)の衣服にするためのものです。
これにより天皇(すめらみこと)はその気持ちを知り、宮にお帰りになりました。
この時、その夫の速総別王(はやぶさわけのみこ)がやって来て、その妻の女鳥王(めどりのみこ)が次のように歌を詠(よ)みました。
「雲雀(ひばり)は 天(あめ)に翔(かけ)る 高行(たかゆ)くや 速総別(はやぶさわけ) 鷦鷯(さざき)取(と)らさね」
(現代語訳)
「雲雀(ひばり)のような小さい鳥でさえ天を自由に飛び翔(か)けまわる。まして、隼(はやぶさ)の名を持つ速総別(はやぶさわけ)さま、鷦鷯(さざき)(仁徳天皇のこと)を取ってしまいなさい。(殺してしまいなさい)」
天皇(すめらみこと)はこの歌をお聞きになり、軍勢を集めて二人を殺そうと思いました。
速総別王(はやぶさわけのみこ)と女鳥王(めどりのみこ)は共に逃げ退いて、倉椅山(くらはしやま)(奈良県桜井市にある山)に登りました。
そこで速総別王(はやぶさわけのみこ)次のように歌を詠(よ)みました。
「梯立(はした)ての 倉椅山(くらはしやま)を 嶮(さが)しみと 岩懸(いわか)きかねて 我が手取らすも」
(「梯立て」は「倉」の枕詞)
(現代語訳)
倉椅山(くらはしやま)は険しいと、岩に取りすがることもできず、私の手を握っている。
続けて、次のように詠(よ)みました。
「梯立(はした)ての 倉椅山(くらはしやま)は 嶮(さが)しけど 妹(いも)と登(のぼ)れは 嶮(さが)しくもあらず」
(現代語訳)
倉椅山(くらはしやま)は険しいけれど、妻と登れば険しいこともない。
そして、二人はその地より逃げ、宇陀(うだ)の蘇邇(そこ)(現在の奈良県宇陀郡曽爾村)に着いた時、天皇(すめらみこと)の軍勢に追いつかれて殺されてしまいました。
その将軍(いくさのきみ)の山部大楯連(やまべのおおたてのむらじ)は、女鳥王(めどりのみこ)が手に巻いていた玉釧(たまくしろ)(玉を付けた腕輪)を奪って自分の妻に与えました。
この後、豊楽(とよのあかり)(新嘗祭の翌日に催される宴)が催されたとき、各氏族の女たちが皆宮中に参内(さんだい)しました。
このとき、大楯連(おおたてのむらじ)の妻は、夫が女鳥王(めどりのみこ)を殺したときに奪った玉釧(たまくしろ)を、自分の手に巻いて参列(さんれつ)しました。
大后(おおきさき)の石之日賣命(いはのひめのみこと)は、自ら大御酒(おおみき)の柏(かしわ)を取り、それぞれの氏族の女たちに与えました。
すると、その玉釧(たまくしろ)を目にした大后(おおきさき)は、かつて女鳥王(めどりのみこ)が手に巻いていたその玉釧(たまくしろ)を覚えていたので、大楯連(おおたてのむらじ)の妻に御酒柏(みきのかしわ)を与えずに退席させ、その夫の大楯連(おおたてのむらじ)を呼び出し、
「その王(みこ)たちは、不敬な行為があったから退(しりぞ)けたのだ。これに他の意味はなかった。その夫であるお前は、自分の主君が手に巻いていた玉釧(たまくしろ)を、肌が温かいうちに剥(は)ぎ取って自分の妻に与えたのか」
と言って、処刑(しょけい)しました。
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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