vol.155 憲法第二条【皇位の継承】G皇族の意義とその範囲
日本国憲法には「天皇」や「皇室」という言葉はありますが、「皇族」という言葉はありません。
皇族について規定しているのは皇室典範という法律で、第五条から第十五条までが皇族に関する規定です。
皇室典範第五条によると、皇族の範囲は皇后、太皇太后(たいこうたいごう)(先々帝の皇后)、皇太后(こうたいごう)(先帝の皇后)、親王(しんのう)、親王妃(しんのうひ)、内親王(ないしんのう)、王(おう)、王妃(おうひ)、女王(じょおう)とされていて、ここに天皇は含まれていません。
ということは、天皇は皇族ではないことになります。また皇室典範第九条に「天皇及び皇族は」という記述があることからも、天皇が皇族に含まれないことが分かります。
つまり、皇室の構成員は「天皇と皇族」ということになります。
皇族が法律によって規定されるのには憲法上の理由があります。
憲法が第二条で「皇位は、世襲(せしゅう)のもの」と定めた以上、皇位継承資格者の範囲を明確にする必要があるからです。
皇族は経済上の特権を得ると同時に、多くの経済上の制約を受けるほか、基本的人権が著しく制限されることからも、やはり一般国民と皇族の違いを明確にする必要があるのです。
「皇族は公人で、公務の義務がある」と思っている人が多いようですが、これは大きな間違いです。
まず、皇族は公務員ではありません。そして、公人でもなく、法律的な公務も存在しません。
たしかに、憲法第一条が示すとおり天皇は「日本国の象徴」「日本国民統合の象徴」ですから公人ですし、憲法第七条には天皇の国事行為が規定されていますから、天皇には公務が存在します。
ところが、皇族については、憲法や法律のどこにも公務に関する規定はないのです。
近年、皇太子妃雅子殿下が御体調不良で療養あそばされ、雑誌などが「皇族なのに公務をしない」などという心無い記事を掲載しました。
しかし、先ほど述べた通り、そもそも皇族に法的な公務はないのですから、そのような指摘はまったくお門違(かどちが)いなものというべきでしょう。
もし皇族に公務というべきものがあるならば、それは「御存在あそばすこと」であるはずです。
現在の皇室典範は、皇族の子供は皇族になることとし、永世(えいせい)皇族制を採用しています。
男子は天皇から二世までを親王、三世以下を王とし、また女子は皇族以外の者と結婚した場合に皇族の身分を離れることと規定しています。
ただし、皇族となれるのは皇族の嫡子(ちゃくし)に限られ、庶子(しょし)は皇族の身分を得ることはできません。
嫡子とは正妻が生んだ子供のことを指し、庶子は正妻以外の女性が生んだ子供のことを指します。
皇室典範が永世皇族制を導入したのは、皇位継承資格者たる皇族を一定数確保することを目的としています。
しかし、将来もし皇族の数が多くなりすぎた場合は、適宜、皇籍を離脱させて皇族の数を調整するものと理解されています。(内閣法制局見解)
ところが、現在は秋篠宮文仁(あきしののみや・ふみひと)親王殿下がお生まれになってから、皇室にお生まれになった方が九方連続で女性だったこともあり、今後極端に皇族が少なくなることが心配されています。
たしかに、平成十八年に秋篠宮に男のお子様がお生まれになりましたが、それでも、若い世代に男のお子様がいらっしゃる宮家は秋篠宮だけです。
このままでは、秋篠宮以外の宮家は全て無くなることがほぼ確実です。
秋篠宮にお生まれになった悠仁(ひさひと)親王殿下に将来弟がお生まれになれば、その方が秋篠宮を継承することになりますが、それなき場合は、悠仁親王殿下が将来天皇に即位あそばす時、秋篠宮も断絶することになります。
そうなってしまったら、皇室に天皇ただお一人がいらっしゃり、皇族は一人もいらっしゃらないという事態になる可能性もあります。
皇族がお一人もいらっしゃらないということは、日本の歴史上異常な事態といわなければなりません。
皇室を守るためには、皇位継承資格を持つ皇族を一定数確保する方法を考えなくてはいけません。
とはいえ、長年守ってきた男系継承の大原則を崩し、安易に女系天皇などを認めることは慎まなくてはいけません。
伝統を変える方法を考える前に、伝統を守る方法を考えなくてはいけないのです。
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