vol.148 憲法第二条【皇位の継承】F即位の礼
憲法第二条の七回目です。久しぶりになりましたので、もう一度条文をおさらいしてみましょう。
憲法第二条【皇位の継承】
皇位は、世襲(せしゅう)のものであつて、国会の議決した皇室典範(こうしつ・てんぱん)の定めるところにより、これを継承する。
前回(第142回)は皇位継承直後に行われる儀式についてでしたが、今回はその後に行われる「即位の礼」について勉強することにします。
皇室典範第四条は「天皇が崩じたときは、皇嗣(こいうし)が、直ちに即位(そくい)する。」と規定しているため、法律上、天皇は特別な儀式などをせずとも、先帝の崩御(ほうぎょ)(天皇が亡くなること)によって直ちに天皇に即位することになっています。
しかし、歴史的には新帝が先帝から三種の神器(じんぎ)を受け継ぐ儀式が不可欠であり、昭和64年1月7日の昭和天皇崩御にあたっても、「剣璽(けんじ)等承継の儀」と「即位後朝見(ちょうけん」の儀」が国事行為として行われたことについては前回詳しく説明しました。
しかし、その一方で皇室典範は第二十四条で「皇位の継承があつたときは、即位の礼を行う。」と規定しています。即位の礼は、新天皇が即位した事実を広く内外に示す儀式であると考えられます。
皇位継承については、次の三つの段階があります。
@ 三種の神器を継承する儀式=践祚(せんそ)
A 新天皇が即位した事実を広く内外に示す儀式=即位の礼
B 新天皇が初めて新穀を神に捧げる祭祀(さいし)=新嘗祭(にいなめさい)
即位の礼は二番目に当たります。結婚式に例えると、@が結婚式で、Aが結婚披露宴ということになるでしょう。
かつて旧皇室典範の時代には、「登極令(とうきょくれい)」という政令があり、「即位ノ礼」について、その時期や内容について細かい規定がありました。
ところが、昭和22年に皇室関連の政令が全て廃止されて以降は、先ほど示した通り、皇室典範に「即位の礼を行う」と記しただけで、詳細はどこにも書かれていません。
日本国憲法下における最初の即位の礼は、昭和天皇崩御の翌年の平成2年に行われた、今上天皇(きんじょう・てんのう)(現在の天皇陛下)の即位の礼でした。
この時は、原則として「登極令」に記された式次第を踏襲し、約一年間にわたり、約四十の連続した儀式が行われました。
平成2年11月12日には一連の即位の礼の内、最も重要な「即位礼正殿(せいでん)の儀」が東京の皇居で行われ、158カ国と2国際機関の代表を含め、およそ2500名が参列しました。
即位の礼の形式は宗教色があるため政教分離(せいきょう・ぶいんり)原則に反する、もしくは、内閣総理大臣が天皇より下座(しもざ)から祝いの言葉である「寿詞(よごと)」を述べたことは国民主権(こくみん・しゅけん)原則に反するといった意見があります。
しかし、天皇の本質は「祭り主(まつりぬし)」ですから、天皇は宗教的な存在です。その天皇を、憲法が第一条で「日本国の象徴」と定めた以上、たとえ憲法が政教分離原則を掲げたとしても、天皇から全ての宗教色を排除することはできません。
同じ憲法の中で矛盾が生じた場合は、「原則」と「例外」として分けて考えれば問題はないのです。つまり、政教分離原則が「憲法の原則」なら、天皇の宗教色は「憲法が定める例外」ということになります。
さらに第二条で皇位は世襲と定めた以上、伝統的な皇位継承儀式を行うことは、仮にその儀式に宗教色があったとしても、やはり、政教分離原則の例外として考えるべきでしょう。
皇位継承儀式は伝統的なものであり、皇位継承と切り離して考えることはできません。伝統的儀式はそれ自体が様式文化(ようしき・ぶんか)であり、無形文化財として価値を認めていくべきでしょう。このような儀式を可能にするため、国家として必要な手だてを講じることは当然です。
また、内閣総理大臣が天皇の下座で寿詞(よごと)を述べるのが国民主権原則に反するという点については、すでに第142回で記した通り、天皇は「主権者たる国民の象徴」であるのに対し、内閣総理大臣は「統治される国民の代表」ですから、総理が天皇の下座から寿詞(よごと)を述べることは、憲法違反どころか、むしろ憲法的であるというべきでしょう。
「主権者たる国民」は目で見ることはできません。目に見える一人一人の国民は「統治される国民」であって、「主権者たる国民」とは異なります。
「主権者たる国民」を象徴するのは天皇ただお一人であり、内閣総理大臣は「統治される国民」の代表に過ぎないのです。
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