皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.141 応神天皇F(古事記、第四十三話)
 新羅(しらぎ)の国主(こにきし)の子である天之日矛(あめのひほこ)が、新羅から日本に渡ってくるときに、神霊の宿る宝を持ってきました。その宝は伊豆志之八前大神(いづしのやまへのおほかみ)といいます。
 伊豆志之八前大神には娘があり、名を伊豆志袁登賣神(いずしおとめのかみ)といいました。
 そいて、八十神(やそがみ)(多くの神が)が伊豆志袁登賣神(いずしおとめのかみ)を得ようと思っていましたが、誰も結婚することはできませんでした。
 ここに二柱(ふたはしら)の神がいました。兄を秋山之下氷壮夫(あきやまのしたびおとこ)と名付け。弟を春山之霞壮夫(はるやまのかすみおとこ)と名付けました。
 その兄がその弟に、「私は伊豆志袁登賣(いずしおとめ)を求めたけれど結婚できなかった。おまえはこの嬢子(おとめ)を得ることができるか」と言うと、弟は「簡単なことです」と答えました。
 するとその兄は、「もしおまえがこの嬢子(おとめ)を得ることができれば、私は上下の衣服を脱ぎ、身の丈を測ってその高さの大きな甕(かめ)に酒を醸(かも)し、また山や川の産物をことごとく用意して、宇禮豆玖(うれづく)(賭けをする)ことにしよう」と言いました。
 そこでその弟が、兄が言うことを詳しくその母に伝えると、その母は藤葛(ふじかずら)を取って、一晩の間に服と履物を織り縫い、また弓矢を作り、その衣服等を着せ、その弓矢を持たせ、春山之霞壮夫(はるやまのかすみおとこ)をその嬢子(おとめ)の家に向かわせると、その衣服や弓矢がことごとく藤の花になりました。
 そして、その春山之霞壮夫(はるやまのかすみおとこ)は、その弓矢を嬢子(おとめ)の家の厠(かわや)(便所)に立て掛けました。
 そこで伊豆志袁登賣(いずしおとめ)がその花を奇妙に思い、持って来ようとした時、その嬢子(おとめ)の後ろに立ち、その家に入って結婚しました。
 そして、一人の子が生まれたのです。

 そこで、その兄に、「私は伊豆志袁登賣(いずしおとめ)をものにした」と言いました。
 しかし、兄は弟が伊豆志袁登賣(いずしおとめ)と結婚したことに気を悪くし、約束を破り、宇禮豆玖(うれづく)の物を償いませんでした。
 そこで愁(うれ)えてその母に申し上げると、母親は次のように言いました。
 「私たちが生きている間のことは、よく神に習うべきです。なのに、その物を償(つぐな)わないのは、現実の人間に習ったのでしょうか。」
 このように答えると、その兄子(えのこ)を恨み、伊豆志河(いづしがわ)の河島(かわしま)(中洲・なかす)の一節(ひとふし)の竹を取って、編目の粗(あら)い竹籠(たけかご)を作り、その川の石を取り、海水と混ぜ合わせてその竹の葉に包み、「この竹の葉が萎(しお)れるように、萎(しお)れよ。また、この潮が引くように、体が干からびよ。また、この石が沈むように、衰弱してくたばれ」と呪いの言葉をかけ、竈(かまど)の上に置きました。
 こういうわけで、その兄は八年の間、干からび萎(しお)れ病んで衰えました。
 そこで、その兄が患(うれ)い泣いてその母親に許しを求めると、その呪物(じゅぶつ)を竈の上から取り除かせました。
 そこでその身は元通りに安らかに治りました。これが「神うれづく」という言葉の発祥です。

 また、この品陀天皇(ほむだのおおきみ)(応神天皇)の御子(みこ)の若野毛二俣王(わかのけふたまたおう)(**8)が、その母の妹の百師木伊呂弁(ももしきいろべ)(**25)、またの名は弟日賣真若比賣命(おとひめまわかひめのみこと)を娶(めと)って生んだ子は大郎子(おおいらつこ)。またの名は意富富杼王(おおおどおう)。
 次に忍坂之大中津比賣命(おしさかのおおなかつひめのみこと)。
 次に田井之中比賣(たいのなかひめ)。
 次に田宮之中比賣(たみやのなかひめ)。
 次に藤原之琴節郎女(ふじわらのことふしのいらつめ)。
 次に取賣王(とりめおう)。
 次に沙禰王(さねおう)。七柱。
(意富富杼王(おおおどおう)は、三国君(みくにのきみ)(*40)、波多君(はたのきみ)、息長坂君(おきながのさかのきみ)、酒人君(さかひとのきみ)、山道君(やまじのきみ)、筑紫之米多君(つくしのめたのきみ)、布勢君(ふせのきみ)等の祖に当たる。)

 また、根鳥王(ねとりおう)が庶妹(ままいも)の三腹郎女(みはらのいらつめ)を娶(めと)って生んだ子は中日子王(なかつひこおう)。
 次に伊和嶋王(いわじまおう)。二柱。
 また、堅石王(かたしはおう)の子は久奴王(くぬおう)です。

 およそこの品陀天皇(ほむだおおきみ)(応神天皇)の御年(みとし)は百三十歳。甲午年(きのえうまのとし)九月九日(*41)に崩御されました。
 御陵(みはか)は川内恵賀之裳伏岡(かうちのえがのもふしのおか)にあります。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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