皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.138 応神天皇E(古事記、第四十二話)
 大山守命(おおやまもりのみこと)が命を落とし、遺骸が那良山(ならやま)(大和国と山代国の間にある奈良山)に葬られると、大雀命(おおさざきのみこと)と宇遅能和紀郎子(うぢのわきいらつこ)の二柱(ふたはしら)の兄弟は、それぞれ天下を譲り合うことになりました。
 そんな時、海人(あま)が大贄(おおにえ)(神または天皇への貢ぎ物として奉る産物)を納めようとしました。
 すると兄はこれを辞退して弟に貢がせ、また弟もこれを辞退して兄に貢がせ、お互いに譲り合っている間に、多くの日数が経ちました。
 このように譲り合うことは、一度や二度に留まらず、ついに海人は行き来に疲れて泣いてしまいました。
 そのため、ことわざで「海人や、己が物(おのがもの)によりて泣く」というのです。
 ところが、宇遅能和紀郎子(うぢのわきいらつこ)は早くに薨去(こうきょ)されたため、大雀命(おおさざきのみこと)が天下を治めることになったのです。

 また昔、新羅(しらぎ)(朝鮮半島にあった国のひとつ)の国主(こにきし)の子がいました。名を天之日矛(アメノヒボコ)と言います。
 この人が日本に渡って来たその理由はつぎのようなものでした。
 新羅国(しらぎのくに)に一つの沼があり、名を阿具沼(あぐぬま)と言いました。この沼のほとりに、一人の賤(いや)しい女(おみな)が昼寝をしていました。
 ここに日光が虹のように輝いて、その陰部(いんぶ)を照らしました。
 また、一人の賤しい男がいて、その様子を奇妙に思い、常にその女の行動を窺っていました。
 すると、この女はその昼寝した時から身籠り、赤い玉を生んだのです。
 そこでその窺っていた賤しい男は、その玉を頼んで貰い、包んで腰につけました。
 この人は、田を谷の間に作りました。そして、百姓たちの食料を一頭の牛に背負わせて、谷の中に入ると、その国主(こにきし)の子の天之日矛(あめのひほこ)と偶然に出会いました。
 すると天之日矛は、その人に「なぜおまえは食料を牛に背負わせて谷に入るのか。おまえはきっとこの牛を殺して食べるのであろう」といい、その人を捕えて牢屋に入れようとすると、その人は「私は牛を殺すことはしません。ただ百姓たちの食料を運んでいるだけです」と答えました。
 しかし、やはり許されませんでした。そこで、その腰に付けていた玉を取り出して、国主(こにきし)の子に贈りました。
 すると国主の子はその賤しい男を許し、その玉を持ち帰り、床のそばに置くと、その玉は美しい嬢子(おとめ)になりました。
 国主の子は、その嬢子と結婚し、正妻としました。
 嬢子は、いつも様々な珍味(ちんみ)を作り、常にその夫に食べさせましたが、その国主の子は心奢(おご)って妻を罵(ののし)るので、その女人(をみな)は、「元々私はあなたの妻となるべき女ではありません。私の祖(おや)の国に行きます」と言い、密かに小船に乗り、逃げ渡って来て、日本の難波(なには)(現在の大阪市)に留まりました。
 これは難波の比賣碁曾社(ひめこそのやしろ)に鎮座(ちんざ)する阿加流比賣神(あかるひめのかみ)という神です。

 そこで天之日矛(あめのひほこ)はその妻が逃げたと聞き、日本に追い渡って来て、難波(なには)に着こうとしたところ、その海峡の神が遮って天之日矛を入れませんでした。
 そこで天之日矛は、さらに戻って多遅摩国(たぢまのくに)(但馬国、現在の兵庫県北部)で待つことにしました。
 そして、その国に留まって、多遅摩の俣尾(またお)の娘、名は前津見(まえつみ)を娶(めと)って生んだ子は多遅摩母呂須玖(たぢまもろすく)。
 この子が多遅摩斐泥(たぢまひね)。
 この子が多遅摩比那良岐(たぢまひならき)。
 この子が多遅麻毛理(たぢまもり)。
  次に多遅摩比多訶(たぢまひたか)。
  次に清日子(きよひこ)。三柱。
 この清日子(きよひこ)が当摩之灯縺iたぎまのめひ)を娶(めと)って生んだ子は酢鹿之諸男(すがのもろお)。
  次に妹の菅竈由良度美(すがかまのゆらどみ)。
 そして、上に述べた多遅摩比多訶(たぢまひたか)が、その姪(めい)の由良度美(ゆらどみ)を娶って生んだ子は葛城之高額比賣命(かづらきのたかぬかひめのみこと)。これは息長帯比賣命(おきながたらしひめ)の母親。

 そして、その天之日矛(あめのひほこ)が持って日本に渡って来た物は玉津宝(たまつたから)と言い、これは玉を緒に貫いたもの二つ、そして浪振領巾(なみふるひれ)、浪切領巾(なみきるひれ)、風振領巾(かぜふるひれ)、風切領巾(かぜきるひれ)、また、奥津鏡(おきつかがみ)、辺津鏡(へつかがみ)の併せて八種(やくさ)です。
これは伊豆志之八前大神(いずしのやまえのおおかみ)です。

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第133回、応神天皇C(古事記、第四十話)
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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