皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.136 応神天皇D(古事記、第四十一話)
 応神天皇(おうじん・てんのう)が崩御(ほうぎょ)(天皇が亡くなること)されると、皇子三人の間で皇位継承をめぐる争いが起きます。
 大雀命(おおさざきのみこと)は応神天皇の遺言に従って、天下を弟の宇遅能和紀郎子(うぢのわきいらつこ)に譲りました。
 ところが、一番上の兄である大山守命(おおやまもりのみこと)は応神天皇の命令に背き、天下を取ろうと考え、末っ子の宇遅能和紀郎子を殺そうという考えがあり、秘かに武器を準備して攻めようとしました。
 大雀命は、兄が武器を準備していると聞くと、直ぐに使者を遣わして、宇遅能和紀郎子に伝えました。
 それを聞いて驚いた宇遅能和紀郎子は、兵士を宇治川(うじがわ)のほとりに潜ませて、山の上に、絹で作った幕を張り、偽って舎人(とねり)(天皇や皇族の雑務を担当する者)を王(みこ)に仕立て、見えるように王の椅子に座らせ、従う者たちがうやうやしく行き来する様子が、まるで王子(みこ)の御座(ござ)のようにしました。
 そして、宇遅能和紀郎子は、兄の大山守命が川を渡る時に殺すことを計画しました。
 船の櫓(ろ)や櫂(かい)を準備して飾り、さな葛(かずら)(モクレン科の植物)の根を搗(つ)き、その汁をとって、船の床に塗り、踏むと転ぶように仕掛けました。
 そこで宇遅能和紀郎子は、布の服を着て、賤しい人の姿となり、楫(かじ)をとって船に立ちました。
 そこでその兄王(あにみこ)の大山守命は、兵士を隠して潜ませ、服の中に鎧(よろい)を着て、川辺に来て船に乗ろうとしました。
 大山守命は、山の上に造られた偽の陣に、弟の宇遅能和紀郎子が椅子に座っていると思い込んだのです。
 そして大山守命は、まさか宇遅能和紀郎子が楫を取って船に立っているとは思わずに、その楫を取る者に
 「この山に凶暴な大猪がいると聞く。私はその猪を討とうと思う。その猪は獲れるだろうか。」
 と聞くと、その楫取りは「できないでしょう」と答えました。
 大山守命がその理由を尋ねると、楫取りは、
 「折々、時々、討とうとしてもできませんでした。それで出来ないと申し上げたのです」
 と答えました。
 船が川の中央に差し掛かると、楫取りに扮(ふん)した宇遅能和紀郎子は、その船を傾かせて、大山守命を水の中に落とし入れました。
 大山守命は浮かび出て、水の流れに流されて下りました。そこで大山守命が流れながら詠んだ歌は、

 ちはやぶる 宇治(うじ)の渡(わたり)に 棹執(さおと)りに 速(はや)けむ人し 我が許(もこ)に来(こ)む

(現代語訳)
 宇治川(うじがわ)の渡し場で、棹(さお)を操るのが素早い人よ。私の所に助けに来てくれ。

 その時、川辺に伏せていた兵士が、あちこちから一斉に現れ、矢を放ちました。
 そして、大山守命は訶和羅之前(かわらのさき)まで流れたところで沈んだので、鉤(かぎ)でその沈んだ所を探すと、大山守命が着ていた服の中の鎧に引っ掛かり、「訶和羅(かわら)」と鳴りました。
 そこで、その地を訶和羅前(かわらのさき)と言うのです。
 大山守命の遺骸(いがい)を引き上げた時、弟の宇遅能和紀郎子が詠んだ歌は、

 ちはやひと 宇治(うじ)の渡(わたり)に 渡り瀬(ぜ)に 立てる 梓弓檀弓(あづさゆみまゆみ) い伐(き)らむと 心は思(も)へど い取らむと 心は思へど 本方(もとへ)は 君を思(おも)ひ出(で) 末方(すえへ)は 妹(いも)を思ひ出 いらなけく そこに思ひ出 悲しけく ここに思ひ出 い伐(き)らずぞ来る 梓弓檀弓(あづさゆみまゆ)

(現代語訳)
 宇治川の渡し場の、渡し口に立っている、梓弓(あずさゆみ)の木と真弓(まゆみ)の木よ。伐ろうと心には思うけれど、採ろうと心には思うけれど、根元を見ると君を思い出し、末の方を見ると妹を思い出し、心を痛め思い出し、悲しいことも思い出し、伐らずに戻って来た。梓弓の木と真弓の木よ。
 
 そして、その大山守命の遺骸は那良山(ならやま)(大和国と山代国の間にある奈良山)に葬られました。

 大山守命は、土形君(ひじかたのきみ)、幣岐君(へきのきみ)、榛原君(はりはらのきみ)等の祖に当たります。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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