vol.133 応神天皇C(古事記、第四十話)
応神天皇(おうじん・てんのう)の御世(みよ)には、海部(あまべ)、山部(やまべ)、山守部(やまもりべ)、伊勢部(いせべ)を定めました。
海部とは、漁業や航海に従事して海産物を納めた事業集団、山部と山守部は山を管理して山の産物を納めた事業集団を意味します。
また、伊勢部について意見は分かれていますが、伊勢地方の海部を特に伊勢部と呼んだと考えられます。
そして、剣池(つるぎのいけ)が造られました。剣池とは、現在の奈良県橿原市石川町にある池で、その池のすぐ脇に第8代孝元天皇(こうげん・てんのう)陵(りょう)とされる御陵(ごりょう)があります。
また、この時代は新羅(しらぎ)の人々が渡ってきました。新羅は朝鮮半島南部の東側にあった国です。
建内宿禰命(たけのうちすくねのみこと)(第8代孝元天皇の孫)が渡来人を率いて、堤池(つつみのいけ)という治水池を造らせました。
また、朝鮮半島南部の西側にある百済(くだら)という国の国王(こにきし)である照古王(せうこおう)が、牡馬(おすうま)一頭と牝馬(めすうま)一頭を阿知吉師(あちきし)に託(たく)して献上しました。
照古王は、年代から、百済第5代肖古王(しょうこおう)ではなく、百済第13代近肖古王(きんしょうこおう)(在位346―375年)のことと考えられています。
この阿知吉師は阿直史(あちきのふびと)等の祖で、横刀(たち)と大鏡を献上しました。阿直史は帰化氏族のひとつで、朝廷の文書記録を担当しました。
また、天皇は、百済国(くだらのくに)に、「もし賢(かしこ)い人がいれば派遣するように」と命じました。そこで、命令を受けて派遣されたのが和邇吉師(わにきし)です。
百済国は、論語(ろんご)十巻、千字文(せんじぶん)一巻、あわせて十一巻を和邇吉師に託して献上しました。
和爾吉師は文首(ふみのおびと)等の祖に当たります。文首は帰化氏族のひとつで、文筆を担当していました。
また、百済国は手人韓鍛(てひとからかぬち)―名は卓素(たくそ)―と呉服(くれはとり)の西素(さいそ)の二人を派遣しました。
手人韓鍛は鍛冶職人で、呉服は呉(ご)の国の機織の女性です。
そして、秦造(はたのみやつこ)の祖や漢直(あやのあたい)の祖、また、酒を醸(かも)す職人―名は仁番(にほ)、またの名を須須許理(すすこり)―等も渡って来ました。
秦氏(はたし)は、帰化氏族のなかでも最大勢力で、機織・養蚕・土木などの最新の技術を朝鮮半島から日本に伝え、大和朝廷において一定の地位を占めることになります。
そして、この須須許理が大御酒(おおみき)を醸して天皇に献(たてまつ)りました。
そこで天皇が、献(たてまつ)られた大御酒でほろ酔いして次の歌を詠(よ)みました。
須須許理(すすこり)が 醸(か)みし御酒(みき)に 我酔(われえ)ひにけり 事無酒(ことなぐし) 笑酒(えぐし)に 我酔(われえ)ひにけり
(現代語訳)
須須許理が醸した酒に、私は酔った。無事平安な酒、笑いを催(もよお)す愉快な酒に、私は酔った。
このように詠んで出かけた時、杖(つえ)で大坂道(おおさかのみち)(大和から河内へ超える坂)にあった大石を打とうとすると、その石が走って逃げました。
そのため、諺(ことわざ)で、「堅石(かたしは)も酔人(えいびと)を避(さ)く」(堅い岩も酔っぱらいをよける)と言うのです。
応神天皇の御世には、このようにして朝鮮半島から最新の技術を持った職人たちが次々と渡来してきたことが分かります。
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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