皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.125 「出家した神」聖武天皇
 今からおよそ一三〇〇年前の奈良時代、万葉集に「咲く花の 薫(にほ)ふがごとく」と詠われた平城京は、天平文化(てんぴょう・ぶんか)の華を咲かせた都でした。
 天平文化は、遣唐使によってもたらされた唐の文化と、西アジア・アラブなどの文化の影響を受けた国際色豊かな仏教文化で、日本美術史上、異彩を放っています。奈良は「シルクロードの終着点」ともいわれています。個性豊かな建築・仏像・絵画・美術工芸品がたくさん作られました。東大寺法華堂・正倉院・法隆寺夢殿などが建てられたほか、『万葉集』や『古事記』『日本書紀』が完成したのもこの時代です。
 「天平ロマン」とも称された、一見華やかに思える天平時代ですが、その反面、天変地異・疫病・凶作などが続き、陰湿な権力闘争や反乱が繰り返された時代でもありました。この時期に仏教に深く帰依し、仏教の大事業を進めて「鎮護国家(ちんご・こっか)」を実現させたのが、第45代聖武天皇(しょうむ・てんのう)です。
 文武天皇(もんむ・てんのう)と藤原宮子(ふじわらの・みやこ)の間に生まれた聖武天皇は、元正天皇(げんしょう・てんのう)の譲りを受けて24歳で即位なさいましたが、即位間もなく多くの天変地異に見舞われました。災害などが起きるとそれは天皇のせいであると古くから考えられてきました。聖武天皇は一身にその責任を感じて読経会(どっきょうえ)を催し、およそ三千人を出家させるなど、仏教の力を借りて災いを避けようとなさいました。さらには、生まれて間もない皇子が急逝(きゅうせい)したことで、天皇はより仏教に傾倒していかれたのです。
 聖武天皇が本格的に仏教に帰依(きえ)するきっかけになったのは、天平6年(734)4月に起きた大地震だといわれています。最近の調査によると、このとき大阪地方を襲った大規模な地震は、平城京では震度6程度の揺れだったそうです。天皇は地震の後、自らの責任であると仰せになり、大赦(たいしゃ)を実施になり、一切経を写経され、読経を命じられました。
 しかし、その後も天然痘の流行で多くの民が苦しみ、都でも藤原四兄弟が相次いで命を落とし、さらに輪をかけるように反乱も起き、天皇は心を痛められたといいます。
 そこで天皇は大きな決心をなさいました。詔(みことのり)(天皇の命令のこと)して全国に国分寺と国分尼寺を建設すること、そして大仏の建立を命じられたのです。天皇は大仏を造ることで災いを避けるだけでなく、民衆の心が一つになることを望まれました。
 そして、聖武天皇は天平感宝(てんぴょうかんぽう)(四字の元号)元年(749)に孝謙天皇(こうけん・てんのう)に皇位を譲り、出家しました。天皇が出家するのは歴史上初めてのことです。天皇が神であると考えられるようになったのも聖武天皇の頃からで、その神が出家して仏に仕える身となり、「三宝の奴(さんぽうのやっこ)」(仏法の奴隷)として大仏の前に跪(ひざまず)いたのです。「神の出家」は社会に大きな衝撃を与えたに違いありません。これにより神仏習合(しんぶつ・しゅうご)が加速していきます。
 一万人の僧が参加して行われた大仏の開眼供養を見届けると、上皇は天平勝宝(てんぴょうしょうほう)8年(756)に、天武天皇の孫に当たる道祖王(ふなどおう)を皇太子にするとの遺言を残し、崩御されました。


出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
皇室の系統図(クリックで拡大)

≪バックナンバー≫

 第124回  第123回  第122回  第121回  第120回  第119回  
 第118回  第117回  第116回  第115回  第114回  第113回  第112回  第111回  第110回  
 第109回  第108回  第107回  第106回  第105回  第104回  第103回  第102回  第101回  
 第100回  第99回  第98回  第97回  第96回  第95回  第94回  第93回  第92回  第91回  
 第90回  第89回  第88回  第87回  第86回  第85回  第84回  第83回  第82回  第81回  
 第80回  第79回  第78回  第77回  第76回  第75回  第74回  第73回  第72回  第71回  
 第70回  第69回  第68回  第67回  第66回  第65回  第64回  第63回  第62回  第61回  
 第60回  第59回  第58回  第57回  第56回  第55回  第54回  第53回  第52回  第51回  
 第50回  第49回  第48回  第47回  第46回  第45回  第44回  第43回  第42回  第41回  
 第40回  第39回  第38回  第37回  第36回  第35回  第34回  第33回  第32回  第31回  
 第30回  第29回  第28回  第27回  第26回  第25回  第24回  第23回  第22回  第21回  
 第20回  第19回  第18回  第17回  第16回  第15回  第14回  第13回  第12回  第11回  
 第10回  第 9回  第 8回  第 7回  第 6回  第 5回  第 4回  第 3回  第 2回  第 1回
作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
artist H.P.>>
「皇室へのソボクなギモン」サイン会
ケータイタケシ

 ケータイでコラムも読める!

ケータイタケシ
URLをケータイへ送る