第107回と
第112回で憲法第二条について勉強しました。今回は第二条の三回目です。まず条文をおさらいしてみることにしましょう。
憲法第二条【皇位の継承】
皇位は、世襲(せしゅう)のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。
今回は「皇位は、世襲のもの」という部分に注目します。皇位の世襲とはいったいどのような意味を持つのでしょう。
第二条は皇位を世襲のものであると規定し、その細かいことは皇室典範という法律に任せています。
まず、「皇位」についてですが、これをどのように解釈するかは学説の分かれるところです。たとえば、
@ 「国家的象徴たる地位を連続的にみたもの」
A 「皇祖神への祭り主(ぬし)としての地位」
B 「天皇という地位を連続的にみたもの」
などという解釈がありますが、「皇位」という言葉を定義すること自体が、天皇を定義することになりますので、これは難しい命題だといえるでしょう。
憲法第一条は「天皇は日本国の象徴」と規定しますから、「皇位」を憲法学的に解釈すれば@が導き出されます。
しかし、「象徴」とは「皇位」の一側面を述べているのであって、天皇の地位は「象徴たる地位」だけに限定されるものではありません。ですから「皇位」を@と定義付けることは不適当ではないでしょうか。
次に、天皇の本質は「祈る存在」という考え方から、Aが導き出されます。天皇の本質が「祭り主」であることは明確です。これはまた機会を改めて説明することにしましょう。
しかし、憲法には政教分離の原則があり、国家が宗教と関わることを良く思わない人たちがいます。ですから「皇位」をAと定義することには根強い反対意見が存在します。
私は天皇を「祭り主」と定義することは、何も政教分離に反するものではないと思いますが、「皇位」を定義する部分でぶつかる必要はないと思いますので、Bの定義が妥当だと考えています。
「皇位」とは「天皇という地位を連続的にみたもの」であるという解釈は、無駄がなくて明確です。
では、次に「世襲」について考えてみましょう。
一般的に「世襲」とは、「家の地位・財産・職業などを子孫や養子が受け継ぐこと」を意味しています。
「皇位の世襲」とは、先ほど定義した「皇位」を、子孫や養子が受け継ぐことを意味していると考えられます。
ただし、現在の皇室典範の規定により、天皇と皇族は養子をとることができませんので、皇位の世襲は天皇の子孫に限定されることになります。
歴史的には、養子が皇位を受け継いだ例が何例かあります。しかし、養子といっても全く別の家からの養子ではなく、宮家など、天皇の男系の血筋の皇族から養子をとった例に限られます。
したがって、「皇位は、世襲のもの」とは、「天皇という地位を連続的にみたものは、天皇の子孫がこれを受け継ぐ」と理解してよいでしょう。
ところが、「皇位は世襲」とすることは、「生まれによる差別」であるという考え方があります。
フランスのジロンド憲法草案は「すべて公職における世襲制は、不合理であり暴政的である」と書いています。
家業の世襲や、伝統芸能の世襲などは個人的な自由であって、何も「生まれによる差別」でないことは明らかですが、確かに公職の世襲は「生まれによる差別」になるでしょう。 そして天皇の地位は公職であることにほかなりません。
ですから皇位の世襲が「生まれによる差別」に該当するという考え方には一理あります。
そして憲法第十四条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定しています。これは憲法の平等原則といわれています。
したがって、憲法第二条の「皇位の世襲」は、憲法第十四条の平等原則に矛盾すると一般的に理解されています。
しかし、第二条自体が憲法の規定であるため、第二条は第十四条の例外であると考えるわけです。
ところが、第十四条をよく読んでみると、「すべて国民は、法の下に平等」とありますが、果たして天皇は国民でしょうか。
これもいくつか学説に分かれるところで、詳しくはまた別の機会に扱いますが、私は、天皇は国民ではないと考えています。
仮に「皇位の世襲」が「生まれによる差別」であったとしても、もし天皇が国民でないなら、「皇位の世襲」は第十四条に矛盾しないと理解するしかありません。
したがって、私は、「皇位の世襲」は第十四条の平等原則に矛盾しないが、仮に矛盾するとしても、それは憲法自体が許した例外であると考えます。
関連記事
第107回、憲法第二条【皇位の継承】@
第112回、憲法第二条【皇位の継承】A