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vol.116 天皇陛下の「タヌキ」の御研究
 天皇陛下が皇居のタヌキについて学術論文をお書きになりました。
 ご論文は平成20年6月23日付で発行された国立科学博物館研究報告A類(動物学)34巻2号(Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Series A(Zoology),34(2))に「皇居におけるタヌキの食性とその季節変動」というタイトルで掲載されました。
 このご研究は国立科学博物館研究員ら四人との共同研究で、天皇陛下御自らタヌキの糞を採取し、分析あそばしたそうです。
 タヌキは決まった場所で排便する習慣があり、「ため糞」が形成されるのですが、皇居内の「ため糞」三十ヶ所から百六十九個の新しい糞を採取し、その分析結果がご論文にまとめられました。
 天皇陛下は皇居の中でもお住まいがある吹上御苑地区をご担当あそばし、毎週通って分析されたそうです。
 ご論文の要旨はおよそ次のとおりです。

 【要旨】
 糞の数から特定した固体数は二から十四・五頭。糞の内容物は昆虫類の出現率が高く、六十二種類が検出され、植物質の出現率も高かった。
 鳥類は一、二、四月に特に出現率が高く、哺乳類についてはアズマモグラとクマネズミ属が見られたが、出現率は低かった。
 通常都市部のタヌキの糞からは残飯が多く見られるが、皇居のタヌキではそれはなく、特に昆虫類の出現率の高さは都市部から離れた調査地の結果に似ていた。
 皇居ではタヌキの餌になる動植物が年間を通じて供給され、餌が不足する冬場でも果実・甲虫類・鳥類の死骸などを捕食できるため、皇居内だけで生活を維持できると考えられる。

 昭和天皇が生物学者でいらしたことは有名です。昭和天皇にはこんなエピソードがあります。ある時、侍従長(じじゅうちょう)から雑草を刈りましたとの報告を受けた昭和天皇が次のようにおっしゃったそうです。

 「雑草ということはない。どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方で、これを雑草として決めつけてしまうのはいけない。注意するように」

 全てを平等に見るお人柄や、大自然を慈(いつく)しむお気持ちを汲み取ることができる話ではないでしょうか。

 現在の天皇陛下も昭和天皇と同じく生物学者におなりになり、これまでに多くの学術論文を発表されました。
 近年では二〇〇〇年に論文で新種のヒメトサカハゼを発表あそばし、同年には続けてハゼ類の進化のDNAと形態による比較研究のご論文を発表あそばしてから、今回のタヌキのご論文は八年ぶりになります。
 天皇陛下のご論文は皇太子時代に二十六編、即位後に四編、計三十編に上り、今回のタヌキのご論文は三十一編目になります。
 その他にも生物学をご研究あそばす皇族がいらっしゃいます。秋篠宮殿下はナマズのご研究をされ、また天皇陛下のご長女でご結婚と共に皇族の身分を離れられた黒田清子さま(紀宮清子内親王殿下)も鳥類のご研究をされたことで知られています。
 また皇太子殿下が中世の交通・流通史をご専攻あそばしました。

 このように皇族方の中にご研究に熱心な方が多くいらっしゃるのには、歴史的な理由があると思われます。
 鎌倉時代の第八十四代順徳天皇(じゅんとく・てんのう)の著書『禁秘抄(きんぴしょう)』には、天皇の学問のあり方について書かれています。
 『禁秘抄』は順徳天皇が譲位(じょうい)(天皇の位を退くこと)するに当たり、天皇のあるべき姿などについて正確に伝える意図をもって天皇自らがまとめたものです。
 『禁秘抄』の「諸芸能の事」という項は「第一は御学問なり」と書き始められています。「天皇は第一に学問を修めるべきである」という教えがあったのです。
 後に江戸時代になって定められた「禁中並公家諸法度(きんちゅうならびにくげしょはっと)」も『禁秘抄』を援用して第一条に「天子御芸能の事、第一御学問也」(てんしごげいのうのこと、だいいちごがくもんなり)と規定しました。(「天子」とは天皇のこと)
 時代と共に天皇の御学問の分野は異なりますが、歴代天皇には、熱心に学問に打ち込まれた方がたくさんいらっしゃいます。
 昭和天皇も現在の天皇陛下も、順徳天皇の教えを体現していらっしゃるのではないでしょうか。


出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
artist H.P.>>
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ケータイタケシ

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