vol.115 仲哀天皇C(古事記、第三十六話)
戦いに勝った神功(じんぐう)皇后の大臣(おおおみ)・建内宿禰命(たけうちのすくねのみこと)は、その太子(ひつぎのみこ)を連れて、戦の禊(みそぎ)をしようとして、淡海(あふみ)(現在の琵琶湖)や若狭国(わかさのくに)(現在の福井県南西部)を巡りました。
その時、高志前(こしのみちのくち)の角鹿(つぬが)(現在の福井県敦賀市)に仮宮(かりみや)を造って滞在しました。
すると、そこに住む伊奢沙和気大神之命(いざさわけのおおかみのみこと)が御子(みこ)(太子のこと)の夢に現れて「私の名を御子(みこ)の御名(みな)とかえたい」と言いました。
そこで御子が「畏まりました。お言葉の通りにいたしましょう」と言うと、その神は「明日の朝、浜にいきなさい。名をかえたことの贈り物を与えよう」と言いました。
そこで、翌日の朝に浜にでかけると、鼻が傷ついたイルカが、一浦(ひとうら)に打ち上げられていました。ところで、古くのイルカ漁は銛(もり)で鼻を突いて捕らえるため、捕らえたイルカの鼻にはその傷がついていたのです。
そこで御子は神に申し上げさせ「私に御食(みけ)の魚(な)を与えて下さいました」と言いました。御食とは神に差し上げるお食事のことで、神の食料が御子に下賜されたことを意味します。
そこで、その御名を称えて、その神を御食津大神(みけつおおかみ)と名づけました。後に気比大神(けひのおおかみ)と言われるようになります。気比大神は現在の気比神宮(福井県敦賀市)の御祭神とされています。
またそのイルカの鼻の血が臭かったので、その浦を名付けて血浦(ちうら)と言います。それが都奴賀(つぬが)となりました。それが現在の敦賀(つるが)です。
こうして禊をすませて帰った時、母親の息長帯日売命(おきながたらしひめのみこと)は待酒(まちざけ)を用意していました。そこで息長帯日売命が読んだ歌は。
この御酒(みき)は 我が御酒ならず 酒(くし)の司(かみ) 常世(とこよ)に坐(いま)す 石立(いわた)たす 少名御神(すくなみかみ)の 神寿(かむほ) 寿(ほ)き狂ほし 豊寿(とよほ)き 寿(ほ)き廻(もとほ)し 献(まつ)り来し御酒ぞ 乾(あ)さず食(を)せ ささ (40)
【現代語訳】
この御酒は、私が作った御酒ではありません。酒を司(つかさど)るお方で、常世国(とこよのくに)においでになり、この国では石像としてお立ちになっておいでの少名毘古那神(すくなびこなのかみ)が、祝福し、狂うほど祝福し、祝福し尽くして、下さった御酒です。呑み干しなさい。さあ。
このように歌い、大御酒(おおみき)を献(たてまつ)りました。そこで建内宿禰命が御子のために答えて次のように歌いました。
この御酒(みき)を 醸(か)みけむ人は その鼓(つづみ) 臼(うす)に立てて 歌ひつつ 醸(か)みけれかも 舞ひつつ 醸みけれかも この御酒の 御酒の あやに うた楽し ささ(41)
【現代語訳】
この御酒を造った人は、酒を造る臼(うす)の側に鼓(つづみ)を置いて、歌いながら酒を造ったからか、舞いながら酒を造ったからか、この御酒は、この御酒は、なんとも愉快(ゆかい)だ。さあ。
これは酒楽(さかくら)の歌です。
御子は角鹿の神と名を交換し、神が作った酒で宴(うたげ)を行うことで、即位が承認されて、第十五代応神天皇となりました。
神の怒りに触れて命を落とした、御子の父に当たる帯中津日子天皇(たらしなかつひこのすめらみこと)(第十四代仲哀天皇)は御年(みとし)五十二歳、壬戌年六月十一日(みづのえいぬのとしのみなつきとをかあまりひとひ)に崩御(ほうぎょ)あそばしました。
御陵(みはか)は河内(かうち)の恵賀(えが)の長江(ながえ)にあります。また、新羅遠征の大事業を成し遂げた神功皇后は御年(みと)し一百歳で崩御あそばしました。狭城(さき)の楯列(たたなみ)陵に埋葬されました。
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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