前回、適応障害とはいったいどのような病気であるかを説明しました。今回は、どのようにしたら適応障害が直るのか、その方法を説明します。
精神疾患の中には直すのが難しい病気も多くありますが、適応障害は直すことができると考えられています。
ストレスクリニック院長の松崎博光(まつざき・ひろみつ)氏は著書の「マジメすぎて、苦しい人たち―私も、適応障害かもしれない…」(WAVE出版)で「適応障害は数ある精神疾患のなかでも軽症で、珍しくきちんと完治する病態です。完治ですから、完全に治すことができます」といいます。
適応障害は強いストレスに反応して、生活や仕事面で様々な影響が生じている状態です。簡単にいえばストレスが原因なのですが、人によっては同じストレスを受けても平気なこともあるわけです。ですから、それぞれのストレスに対する強さももう一つの要素になります。
つまり、ストレスに弱い人は、弱いストレスでも適応障害になることがありますし、逆にストレスに強い人でも、あまりストレスが強すぎると適応障害になることがあるのです。
そのような構造ですから、適応障害を直す方法は二つの方法論があることが分かるでしょう。
一つは原因となっているストレスをなくすこと。そしてもう一つは、ストレスに強い体質に変化させることです。
一般的には、仕事の環境が原因で適応障害になった場合、配置換えや転職は有効な手段とされています。しかし、一端仕事から離れて、治療をはじめ、同じ仕事に復帰する例も多くあるのです。
職場のストレスは大きく二つの問題が想定されます。「仕事の質と量」そして「対人関係」です。そのどちらか、もしくはその両方が原因となっている場合もあります。
職場で適応障害によって出社できなくなった社員がでた場合、大企業では医者と本人の上司が連携しながら治療に当たることがよくあります。
まず本人の出社を控えさせて様子をみて、場合によっては薬を投与しながら快復(かいふく)を待つそうです。
必要に応じて配置換えを検討することもありますが、元の職場に復帰できるケースもあるといいます。
また、職場環境の整備だけでなく、家族や親しい友人などによるサポートも重要だといわれています。家族同士で会話をすることや、旅行やスポーツ、また親しい友人と食事をするのも効果的なのです。
適応障害は職場や学校への遅刻や早退、そして行けなくなってしまうという形で現れる場合が多く、単なる怠けと勘違いされることがあります。
先ほど紹介した『マジメすぎて苦しいひとたち』という本によると、人格を否定するような発言は最悪で、「怠けるな」「甘えるな」と叱ることも症状を悪化させるといいます。
しかも、「元気を出せ」「がんばれ」といった応援の言葉ですら良くないそうです。なぜなら、応援の言葉自体が本人に対するプレッシャーになってしまうそうです。
また、旅行やスポーツなど、気分転換を勧める言葉も避けるべきだといいます。適応障害の症状が重い場合は、気分転換に出かけることすら苦痛ということもあり、気分転換を勧めることが、すでにプレッシャーになってしまうこともあるというのです。
したがって、適応障害を克服するためには、周囲の人間が適応障害について理解し、本人が安心して治療に専念できる環境を整えることが何よりも大切なのです。
知識がないということは恐ろしいことです。何気なく叱責したり、アドバイスしたりするのが症状を悪化させてしまうこともあるわけですから。
現在皇太子妃殿下は五年近く適応障害のため御静養をなさっていらっしゃいます。少しずつ快復の兆候が見られますが、まだ完全に復帰される目途は立っていません。
不適切なアドバイスは逆効果になることは説明しました。昨今は皇太子妃殿下を厳しく批判する記事が書かれたり、宮内庁長官が皇太子同妃両殿下の参内が少ないなどと苦言を呈したりするのは、妃殿下のご病気にとってはいずれも逆効果と考えるべきでしょう。
安心して御静養していただける環境を整えることが重要です。病気を理解し、暖かくお見守り申し上げることが国民としてのあるべき姿ではないでしょうか。将来の皇后を活かすも殺すも国民次第と考えなくてはなりません。
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