皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.109 宮内庁長官の苦言についてA
 今回も先週に引き続き、平成二十年(二〇〇八)二月十三日、羽毛田信吾宮内庁長官が記者会見で、皇太子殿下に苦言を呈する発言をした件について分析します。

 長官の発言は衝撃的なニュースとして伝えられました。この報道を受けて、週刊誌をはじめ、多くのメディアが皇太子殿下と皇太子妃殿下を非難する記事を書きました。
 それらが正しい取材に基づいた記事であればまだ良いのですが、噂や憶測を書きたてた記事が目立ち、またそのような記事が更なる噂と憶測を呼び、目に余るバッシングになっていきました。
 長官が皇太子に苦言を呈することでこのような結果を招くであろうことは、事前に想像がつくことです。やはり、その通りの結果となってしまいました。
 国民の皇太子両殿下に対する不安と不信を煽(あお)り立てることで、結果として皇室全体のイメージを低下させた宮内庁長官の責任は重いと考えます。

 各種メディアが躊躇(ちゅうちょ)なく両殿下をバッシングし、それを国民が納得しながら読んでいる光景は、集団ヒステリーのようなものです。この状況はかつて英国のプリンセス・ダイアナが亡くなった後の騒動に似ています。
 一九九七年八月三十一日、プリンセス・ダイアナがパリで事故死すると、メディアは英国王室の態度がダイアナの死を悼(いた)んでいないと大々的に書き立て、王室に対する国民の不信は頂点に達しました。
 「王室がダイアナの死を悼んでいない」という根拠は、一つはバッキンガム宮殿の女王旗が半旗にされないこと、そしてもう一つはエリザベス女王からお悔(く)やみの言葉がないことでした。(人の死を悼んで旗を完全に揚げず、途中で止めておくことを「半旗」といいます)
 事故直後から「プリンセス・ダイアナの死は暗殺である」という噂も広がり、ついには「エリザベス女王がダイアナを暗殺させたのではないか」などという根も葉もないうわさ話がまことしやかに囁かれるようになったのです。
 しかし、女王旗を半旗にしないことと、女王がお悔やみの言葉を発しないことには、バッキンガム宮殿なりの理由があったのです。
 バッキンガム宮殿に掲げられる英国の国旗は、女王が宮殿にいるときに掲げ、女王が不在の時には降ろすという性格のものでした。
 ですから、王族が死んだ場合でも半旗にしたことはありませんでした。これまでの英国の歴史で、バッキンガム宮殿の女王旗を半旗にした例は一度もなかったのです。
 しかも、プリンセス・ダイアナは既にチャールズ皇太子と離婚していて、王族ではありませんでした。そのため、バッキンガム宮殿にとってはプリンセス・ダイアナの死にあたって女王旗を半旗にする道理はなかったのです。
 またエリザベス女王がお悔やみの言葉を発しないことにも理由がありました。女王が王族の死にあたってそのようなメッセージを出すことは例がなく、しかもプリンセス・ダイアナは既に王族ではなかったため、女王がお悔やみの言葉を発することは伝統に反するものでした。
 しかし、心無いメディアの王室バッシングはエスカレートし、王室への風当たりは強まる一方でした。そしてついに、国民の七割が「女王の行動は王権を傷つけつもの」とし、四分の一が「王制の廃止に賛成」という世論調査の結果が発表されました。事態はそこまで至ってしまったのです。ダイアナの死からわずか一週間のことです。
 これは集団ヒステリーと呼ぶべき状況です。「王室の廃止」という重大な世論を形成したきっかけは、女王旗を半旗にしないことと、女王からお悔やみの言葉がないことですから、実に些細なことでした。
 それにも、バッキンガム宮殿にはそれなりの理由があり、決してプリンセス・ダイアナの死を悼んでいないからではありませんから、大きな誤解があったことになります。
 結局、トニー・ブレア首相が賢明に女王を説得し、女王旗の半旗と女王のお悔やみの言葉が実現し、一気に国民は冷静さを取り戻しました。そして王室の支持率も通常の数字に戻ったのです。

 昨今の皇太子両殿下に対するバッシング記事と、それによって扇動された国民の姿は、この時の英国の状況と似ています。
 国民は心無い記事に踊らされて皇太子両殿下への非難を叫ぶのではなく、冷静さを取り戻さなくてはいけません。そして、将来天皇と皇后におなりになる皇太子殿下と皇太子妃殿下を暖かくお見守り申し上げるようにすべきです。


 【資料・長官の会見要旨】(二月十四日、東京新聞)
 ※(備考)太字下線部分は、「第98回・宮内庁長官の敬語の間違い」で指摘した敬語の間違いの部分です。詳しくは第98回を参照してください。

 天皇陛下の一昨年のお誕生日の記者会見で、愛子さまと会う機会が少ないことは残念だというご発言があり、皇太子殿下はそれを受けて、昨年の会見でこれからも両陛下にお会いする機会をつくっていきたいと思うとお述べになった。
 しかし、昨年一年を見る限りは、ご参内の回数は増えていない。両陛下も心配しておられると思う。殿下ご自身が記者会見でご発言になったことなので、大切になさっていただければと思う。
 天皇陛下が皇太子であられた時代には、当時の両陛下がご在京で両殿下もご在京の場合、できる限りご一家で毎週一回、ご参内になるのを定例になさっておられた。
 (現在は)陛下がお招きになられる場合や、行事に伴ってご参内される場合を別にすると、殿下のご発意によりご一家でご参内になられるのは年に二、三回という程度にとどまっている。

 ――長官の意見か。
 私自身の気持ちとして申し上げているが、回数もさることながら、やはり会見でそういうふうにおっしゃっていただいているので。私だって「私がこういうふうにする」と言えば、できるだけそうなるようにする。そのことをちょっと申し上げた。まもなくご誕生日の会見も来るので。

 ――両陛下の気持ちは。
 (参内が増えず)どうしたんだろうということでのご心配はなさっておられる。これは間違いないだろうと思います。

 ――東宮職と話したか。
 東宮職にも話したし、殿下にもお話はしました。(皇太子さまは)努力をしたいということは言っておられました。

 ――参内が増えない理由は。
 分かりません。(皇太子さまが)おっしゃれば私もご披露したって構わないけれども、特におっしゃらない以上、申し上げようがない。

 ――直近では(皇太子さまに)いつ話したか。
 きょうもお話をしました。まもなく会見が来るもんですから。今回初めて申し上げたというような話じゃない。

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第108回、宮内庁長官の苦言について@


出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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