皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.108 宮内庁長官の苦言について@
 平成二十年(二〇〇八)二月十三日、羽毛田信吾宮内庁長官が記者会見で、皇太子殿下に苦言を呈する発言をしました。
 以前「第98回・宮内庁長官の敬語の間違い」で、この会見で使われた宮内庁長官の敬語の間違いについて勉強しましたが(興味がある人は参照してください)、今回はその内容について考えてみることにしましょう。二月十四日付東京新聞に記載された会見の要旨は文末に挙げておきます。

 羽毛田長官の記者会見で話題になったのは、皇太子殿下は会見で参内(さんだい)(皇居に行くこと)の機会を増やしていきたいとおっしゃったのに、昨年は参内の回数が増えていないと発言した部分でした。
 天皇陛下の一昨年のお誕生日の記者会見で、愛子内親王殿下とお会いになる機会が少ないことは残念というご発言を受け、皇太子殿下が昨年の会見で、両陛下にお会いする機会をつくっていきたいと思うとおっしゃったことがありました。
 長官は、皇太子殿下ご自身が会見でおっしゃったことは大切になさっていただきたいと述べたのです。
 長官によると、陛下がお招きになる場合や、何らかの行事で参内される例を除くと、皇太子殿下のご発意によってご一家で参内されるのは年に二、三回程度だといいます。
 しかも、このことは長官がこの会見で初めて言うのではなく、直接殿下にも話したといいます。ところが、殿下は努力をしたいとおっやるものの、参内が増えない理由はなにもおっしゃらないそうです。

 この会見は衝撃的なニュースとして伝えられました。マスコミはこのことを「宮内庁長官、皇太子殿下へ苦言を呈する」などと大きく報道したのです。
 というのは、長官が会見で皇族について、まして皇太子について苦言を呈するなどということは、これまでの宮内庁の歴史において一度も例がなかったからです。
 この報道によって、皇太子ご一家の参内が少ないことは、皇室の中にある重大な問題として話題が拡大していきました。
 参内が少ない理由は色々な憶測を呼び、週刊誌をはじめいろいろな雑誌が、あることないことを書き連ね、結果として皇太子殿下と皇太子妃殿下を非難する記事がたくさん掲載されるようになってしまったのです。

 長官のこの発言については意見が分かれます。一つは、「言いにくいことをよく言った」という賞賛の声。そしてもう一つは、「そのようなことを会見で発言すべきではない」という非難の声です。
 どちらかといえば賞賛の声がほとんどでしょう。長官は参内が少ないことについて、東宮職をはじめ殿下ご自身にも直接申し上げたといいますが、それでも状況が変わらなかったので、やむにやまれぬ気持ちで仕方なく、会見でこのようなことを述べたのだから、長官として評価すべきだという考え方です。
 しかし、私はこの会見に非常に大きな違和感を覚えます。この会見の結果、マスコミが簡単に皇太子殿下と皇太子妃殿下をバッシングする空気を作ってしまったからです。結局会見は、皇室全体のイメージを低下させることになってしまいました。
 長官が皇太子殿下ご本人に直接意見を申し上げたところは立派だと思います。宮内庁長官といえども、皇族にご意見することは勇気のいることでしょう。
 しかし、それを記者会見で発言することによって、何もよい方向には動かないのです。むしろマスコミが騒ぎ立てて国民の不安と不信が高まっただけでした。しかも、そのことは発言の前から当然予測できたことです。
 結果から見れば、「不忠の臣」といわれても仕方ありません。

 宮内庁長官の発言は重大に受け取られるものです。長官は、記者会見で国民に向かって皇室内の問題を露呈(ろてい)するのではなく、ただ殿下に直接意見を申し上げればよいのです。
 それでもなお事態が変わらないのであれば、何度も何度も申し上げるべきでしょう。誠実に申し上げ、心の通った会話を重ねれば、腹を割った会話をすることができるかもしれません。長官は安易に会見で苦言を呈するのではなく、陰でそのような努力を続けるべきでした。


 【資料・長官の会見要旨】(二月十四日、東京新聞)
 ※(備考)太字下線部分は、「第98回・宮内庁長官の敬語の間違い」で指摘した敬語の間違いの部分です。詳しくは第98回を参照してください。

 天皇陛下の一昨年のお誕生日の記者会見で、愛子さまと会う機会が少ないことは残念だというご発言があり、皇太子殿下はそれを受けて、昨年の会見でこれからも両陛下にお会いする機会をつくっていきたいと思うとお述べになった。
 しかし、昨年一年を見る限りは、ご参内の回数は増えていない。両陛下も心配しておられると思う。殿下ご自身が記者会見でご発言になったことなので、大切になさっていただければと思う。
 天皇陛下が皇太子であられた時代には、当時の両陛下がご在京で両殿下もご在京の場合、できる限りご一家で毎週一回、ご参内になるのを定例になさっておられた。
 (現在は)陛下がお招きになられる場合や、行事に伴ってご参内される場合を別にすると、殿下のご発意によりご一家でご参内になられるのは年に二、三回という程度にとどまっている。

 ――長官の意見か。
 私自身の気持ちとして申し上げているが、回数もさることながら、やはり会見でそういうふうにおっしゃっていただいているので。私だって「私がこういうふうにする」と言えば、できるだけそうなるようにする。そのことをちょっと申し上げた。まもなくご誕生日の会見も来るので。

 ――両陛下の気持ちは。
 (参内が増えず)どうしたんだろうということでのご心配はなさっておられる。これは間違いないだろうと思います。

 ――東宮職と話したか。
 東宮職にも話したし、殿下にもお話はしました。(皇太子さまは)努力をしたいということは言っておられました。

 ――参内が増えない理由は。
 分かりません。(皇太子さまが)おっしゃれば私もご披露したって構わないけれども、特におっしゃらない以上、申し上げようがない。

 ――直近では(皇太子さまに)いつ話したか。
 きょうもお話をしました。まもなく会見が来るもんですから。今回初めて申し上げたというような話じゃない。


出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
皇室の系統図(クリックで拡大)

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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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