vol.106 仲哀天皇A(古事記、第三十四話)
仲哀天皇(ちゅうあい・てんのう)が神の怒りにふれて呪い殺されてしまうと、残された者たちは驚き恐れ、天皇の亡骸(なきがら)を殯宮(あらきのみや)(葬るまでの間、死体を安置するところ)に移しました。
さらに穢(けが)れを祓(はら)うために、供え物に使う品々を筑紫国(つくしのくに)から取り寄せました。
そして、生剥(いけはぎ)(獣の皮を、生きたまま剥ぐ残虐な行為)、逆剥(さかはぎ)(獣の皮を、逆さから剥ぐ残虐な行為)、阿離(あはなち)(田の畔(あぜ)を壊す行為)、溝埋(みぞうめ)(田の溝を埋める行為)、屎戸(くそへ)(屎を放って神聖な場所を穢す行為)、上通下通婚(おやこたはけ)(親子間の不倫な性行為)、馬婚(うまたはけ)(馬との性行為)、牛婚(うしたはけ)(牛との性行為)、鶏婚(とりたはけ)(鳥との性行為)、犬婚(いぬたはけ)(犬との性行為)などの罪の類(たぐい)を様々に調べ、国の大祓(おおはらえ)をして、また、建内宿禰(たけしうちのすくね)が祭場で神の言葉を求めました。
そうすると、この時に神から告げられた言葉は、細かいところまで前のお告げと同じでした。やはり、海の向こうの西の国を攻めろというのです。そして、「およそこの国は、あなた(神功皇后(じんぐう・こうごう))の御腹(みはら)にいる御子(みこ)が治める国である」とのお告げもありました。
そこで建内宿禰が、「畏(おそ)れおおい、我が大神(おおかみ)、その神(神功皇后のこと。神ががっているので皇后を「神」といった。)の腹にいる御子はどちらの性別でしょうか」と申し上げると、大神は「男子(おのこご)である」と答えました。
建内宿禰は続けて、「今このように教えてくださる大神の御名(みな)を知りたく思います」と述べて詳しく求めると、大神は次のように答えました。
「これは天照大御神(あまてらすおおみかみ)の御心(みこころ)である。また、自らは底筒男(そこつつのお)、中筒男(なかつつのお)、上筒男(うはつつのお)の三柱の大神である。」
これにより、その三柱の大神の御名が明らかとなったのです。この三柱の大神は、天照大御神と同じく、伊邪那岐(いざなきのかみ)の禊(みそぎ)によって生まれた神で、住吉大社(すみよしたいしゃ)(現在の大阪市住吉区)の御祭神(ごさいじん)とされています。
大神はさらに続けていいました。
「今、本当にその国を求めようと思うならば、天神地祇(あまつかみくにつかみ)(高天原(たかまがはら)にいる天神(あまつかみ)と葦原中国(あしはらのなかつくに)にいる国神(くにつかみ)を指す)、また山の神と河海の諸々の神に、ことごとく幣帛(みてぐら)(木綿や麻などの神への供え物)を奉(たてまつ)り、我が御魂(みたま)を船の上に乗せて、眞木(まき)の灰を瓢(ひさご)に納め、また箸(はし)と葉盤(ひらで)(木の葉で作った皿)を多く作り、それらを大海に散浮かべて渡るとよい」
そこで、つぶさに教えられたとおりにして、軍を整え、船を並べて海を渡り進んだとき、海原の魚が、大小にかかわらず、ことごとく船を背負って渡りました。そのうえ、強い追い風が吹いて、船は波が寄せるのにまかせて進んだのです。
そしてついに、その船が立てた波は新羅(しらぎ)の国に押し上がり、その波は勢いよく国の中ほどにまで達しました。
ここにその国王(こにきし)(「こにきし」は古い朝鮮語で王の意味)は畏(かしこ)まって、「今より後は、天皇(すめらみこと)のお言葉に随(したが)い、御馬甘(みまかい)として、年ごとに船を並べて、船の腹を乾かすことなく、棹(さお)や舵(かじ)を乾かすことなく、天地が続く限り永遠に仕(つか)え奉ります」といいました。
これにより、新羅国を御馬甘と定め、百済国(くだらのくに)を渡屯家(わたりのみやけ)と定めました。
そして、神功皇后はその御杖(みつえ)を新羅の国主(こにきし)の家の門に衝(つ)き立てて、墨江大神(すみのえのおおかみ)(住吉大社のこと)の荒御魂(あらみたま)(神霊の動的な部分)を国守神(くにまもりますかみ)として祭り鎮めて、国に帰り渡りました。
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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