皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.82 垂仁天皇B(古事記、第二十七話)
 ようやく言葉を話すことができた御子(みこ)は、一晩、肥長比売(ひながひめ)と交わりました。ところがその美人(おとめ)をそっと覗いてみると、蛇でした。その御子は驚いて逃げ出しました。
 すると、肥長比売は悲しみ、海原を照らしながら船で追ってきました。すると御子はますます驚き、山が低くくぼんでいるところから船を引き上げて、逃げました。
 そのようなわけで、「大神(おおかみ)を拝んだことによって、大御子(おおみこ)が言葉を話しましたので、参上しました」と、天皇に報告しました。天皇は喜び、菟上王(うなかみのおう)を返して、神の宮を造らせました。
 こうして天皇は、その御子が話せることになったことにちなみ、鳥を捕ることを職業とする部民(べのたみ)である鳥取部(ととりべ)、鳥を飼うことを職業とする部民である鳥甘部(とりかひべ)や、品遅部(ほむちべ)、大湯坐(おおゆえ)、若湯坐(わかゆえ)などを定めました。

 また天皇は、かつて后の沙本毘売命(さほびめのみこと)が亡くなるときに遺言で申し上げたとおり、美知能宇斯王(みちのうしのおう)の娘たち、比婆須比売命(ひばすひめのみこと)、弟比売命(おとひめのみこと)、歌凝比売命(うたごりひめのみこと)、円野比売命(まとのひめのみこと)の四柱を妻としました。
 ところが、比婆須比売命と弟比売命の二柱を留めて、その妹の二柱はとても醜かったために生まれ故郷に送り返しました。
 すると円野比売命は恥じて、「同じ今井の中に、姿が醜いからといって帰されたことが近所で噂になることでしょう。これはとても恥ずかしいことです」と言って、山代国(やましろのくに)の相楽(さがらか)(京都府相楽郡)に着くと、木の枝に首を吊って死のうとしました。そこで、その地を名づけて懸木(さがりき)といいます。今は相楽といいます。
 また弟国(おとくに)(京都府乙訓郡)に着いたとき、ついに深い淵に落ちて死にました。そこで、その地を名づけて堕国(おちくに)といい、今は弟国というのです。
 姉妹がそろって同じ男性の妻になるのは、古代における婚姻の形でしたから、珍しい話ではありませんでした。その後、徐々にその形が変わり、正妻を一人とするようになっていきます。

 また天皇は、三宅連(みやけのむらじ)(新羅系渡来氏族)の祖である、多遅摩毛理(たぢまもり)を常世国(とこよのくに)、つまり海の彼方(かなた)にある不老不死の国に遣わして、非時の香の木の実(ときじくのかくのこのみ)という、一年中採れる香りの良い木の実を求めさせました。
 この木の実を食べると不老不死になるといわれていました。天皇は永遠の命を求めたのです。
  そして、多遅摩毛理がついにその国に到って、その木の実を採り、縵八縵(かげやかげ)と矛八矛(ほこやほこ)を持って帰ろうとするその間に天皇は崩御となりました。
 (「縵」とは木の実を紐でつなげたもの。「矛」とは木の実が枝についたままのもの。「縵八縵」と「矛八矛」は、それぞれ八つの縵と八つの矛を意味すると思われる。)
 そこで多遅摩毛理は、縵四縵と矛四矛を分けて、大后に献上し、残りの縵四縵と矛四矛を天皇の御陵の入口の戸に供え、その木の実を捧げて、叫び泣いて次のようにいいました。
 「常世国の非時の香の木の実を持って参上しました」
 多遅摩毛理はこのように叫ぶと、死にました。
 その非時の香の木の実は、今の橘のことです。この天皇の御年、百五十三歳。御陵は菅原(すがはら)の御立野(みたちの)(奈良県生駒郡)の中にあります。またその大后・比婆須比売命のとき、石棺や石室を作る品部(ともべ)・石祝作(いわきつくり)を定め、また埴輪や土器を作る品部・土師部(はにしべ)を定めました。
 この后は、狭木(さき)の寺間(てらま)(奈良県生駒郡)の陵(はか)に葬られました。


 【垂仁天皇の皇子女】
 生母:佐波遅比売命(さはぢひめのみこと)、沙本毘古命(さほびこのみこと)の妹
 01 品牟都和気命(ほむつわけのみこと)

 生母:氷羽州比売命(ひばすひめのみこと)、旦波比古多多須美知宇斯王(たにはのひこたたすみちのうしのおう)の娘
 02 印色之入日子命(いにしきのいりひこのみこと)
 03 大帯日子淤斯呂和気命(おほたらしひこおしろわけのみこと)、景行天皇。
 04 大中津日子命(おほなかつひこのみこと)
 05 倭比売命(やまとひめのみこと)
 06 若木入日子命(わかきいりひこのみこと)

 生母:沼羽田之入毘売命(ぬばたのいりびめのみこと)、氷羽州比売命の妹
 07 沼帯別命(ぬたらしわけのみこと)
 08 伊賀帯日子命(いがたらしひこのみこと)

 生母:阿邪美能伊理毘売命(あざみのいりびめのみこと)、沼羽田之入日売命の妹
 09 伊許婆夜和気命(いこばやわけのみこと)
 10 阿邪美都比売命(あざみつひめのみこと)

 生母:迦具夜比売命(かぐやひめのみこと)、大筒木垂根王(おほつつきたりねのおう)の娘
 11 袁邪弁王(をざべのおう)

 生母:苅羽田刀弁(かりはたとべ)、山代大国之淵(やましろのおほくにのふち)の娘
 12 落別王(おちわけのおう)
 13 五十日帯日子王(いかたらしひこのおう)
 14 伊登志別王(いとしわけのおう)

 生母:弟苅羽田刀弁(おとかりはたとべ)、大国之淵(おほくにのふち)の娘
 15 石衝別王(いはつくわけのおう)
 16 石衝毘売命(いはつくびめのみこと)、またの名は布多遅能伊理毘売命(ふたぢのいりびめのみこと)



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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
皇室の系統図(クリックで拡大)

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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
artist H.P.>>
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