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vol.81 憲法第一条【天皇の地位・国民主権】A
 第79回「憲法第一条【天皇の地位・国民主権】@」で憲法第一条について述べましたが、今回はその続きです。もう一度条文を見てみましょう。

 日本国憲法第一条
 「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく。」

 条文を眺めると@天皇は象徴であること、Aそれは主権者である国民の総意であること、この二つの意味を見出すことができます。これはつまり
 @ 天皇の地位 > 象徴  (象徴天皇)
 A 主権の所在 > 国民  (国民主権)
 を定めていることになります。

 天皇の地位については、象徴であること以外は憲法に明文がありません。ですから、天皇が君主であるか、また天皇が元首であるかについて諸説ありますが、第14回「天皇は元首か?」で述べたとおり、国際社会の慣行上、天皇はわが国の君主かつ元首であると考えるべきでしょう。
 天皇を君主として把握すべきか、また誰がわが国の元首であるか、このようなことが明確に定まっていないことは法的安定性を欠くため、憲法を改正するときに「天皇はわが国の君主であり、元首である」と明記すべきではないでしょうか。
 また、象徴の意味については第79回で既に述べましたので、参照してください。象徴天皇は、立憲君主国の一つのありかたであるととらえられます。
 ところで、大日本帝国憲法(旧憲法)は「大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス」(第一条)、「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬(そうらん)シ、、、」(第四条)、「天皇ハ陸海軍ヲ統帥(とうすい)ス」(第十一条)などと規定していました。天皇は元首かつ統治権の総覧者、そして大元帥(だいげんすい)として、地位が明確に記されていました。
 新憲法が制定されたことで、天皇のあり方は少なからず変更があったことになります。

 次に天皇の地位の根拠を、国民主権との関係を見ながら述べていきます。旧憲法における天皇の地位の根拠は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の神勅(しんちょく)だったことは明らかです。天皇が天皇であるのは神の意思であるから、民がどうこうできる問題ではなかったのです。
 では、新憲法ではどのように見るべきでしょうか。学説の多くは、天皇の地位の根拠は第一条が示す、「主権の存する国民の総意」であると説明します。
 しかし、そうでしょうか。天皇が天皇であるのは「国民が決めたから」というのは少々乱暴な考え方です。さかのぼれば違った理由があったはずです。
 天皇は約二千年間君臨し続けてきました。二千年前「国民の総意」で天皇が成立したわけではありません。
 皇室が二千年間続いてきたのは、天皇が天照大御神の子孫であり、それが天照大御神の意思であると、古代からずっと考えられてきたからなのです。これは自然科学の問題ではなく、政治哲学の問題です。ですから、旧憲法が、天皇の地位の根拠が神勅であるとするのは、ごく自然なことです。
 そんな中、日本が敗戦し、新憲法が作られたのですが、やはり天皇が天皇である根拠は古代より変わることはないわけです。
 ただ、いつの時代も国民が天皇を必要としてきたことは紛れもない事実です。日本人の総意が天皇を不要としたら、いつでも皇室はなくなっていたはずだからです。
 天皇は新憲法が公布された昭和22年にできたものではありません。昭和22年当時の国民が作り上げたものではないのです。古代より脈々と継承されてきた天皇の存在を、当時の日本国民が改めて承認し、現在に至るまで大切にされてきたというのが、憲法第一条の「主権の存する日本国民の総意に基づく」という意味と考えるべきではないでしょうか。
 したがって、天皇が天皇たるゆえんは憲法ではないのです。国民の総意によって天皇が君臨している状態を、憲法が条文に表現したと理解すべきです。

 第一条は天皇の地位と国民主権について書かれていますが、ヨーロッパの君主国ではどのように規定されているのか、いくつか例を見てみることにしましょう。
 イギリスでは、国王(現在は女王)は国家元首であり、「国家統合の象徴」と考えられています。1931年に制定された「Statute of Westminster」前文には「国王は、イギリス連邦所属国の自由な連合の象徴(symbol)であり、彼等は国王に対する忠誠によって結合されている」との記載があります。日本国憲法制定時、これ以外に「symbol」という言葉を用いた法規範は例がありませんでした。
 その後、1978年に制定されたスペイン憲法は「国王は、国家の元首であり、国家の統一性及び永続性の象徴である」「国家の主権は人民に帰属」などと規定しています。
 国民主権でありながら君主がいるというのは矛盾ではないかとの考えもありますが、君主のありかたを国民が決定し、それを支持しているのであれば、君主の存在こそが主権者の意思になるので、決して国民主権と君主は矛盾する存在ではありません。それは日本の憲法でも同じことです。
 同じように、ルクセンブルク憲法、ベルギー憲法、スウェーデン憲法なども、王制を認めつつ、国民に主権があることを規定しています。一方、オランダ憲法とデンマーク憲法は王制を認めながらも、主権者についての明文はありません。
 日本国憲法は第四条に、天皇は「国事に関する権能を有しない」と規定しています。これは世界の君主国の中でも、君主としての権能がない、とても珍しい形です。通常、国王には何らかの政治的権能が認められているからです。
 ですから、日本の憲法とヨーロッパの君主国の憲法を一律に比較することはできませんが、一つの参考にはなります。


関連記事
第79回、憲法第一条【天皇の地位・国民主権】@
第14回、天皇は「元首」か?


出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
皇室の系統図(クリックで拡大)

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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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