皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.74 崇神天皇@(古事記、第二十四話)
 古事記が欠史八代(けっし・はちだい)の続に紹介しているのは、第十代崇神(すじん)天皇です。系譜などの限られた情報しか記載のなかった欠史八代と比べると、崇神天皇については細かい記載がありま。

 崇神天皇(御真木入日子印恵命(みまきいりひこいにえのみこと))は師木水垣宮(しきのみづかきのみや)(奈良県桜井市)で天下を治めました。
 そして、三人の女性との間に、男王七方、女王五方、合計十二方の皇子女を儲けました(皇子女とその生母については、文末にまとめて掲載します)が、そのうち伊玖米入日子伊沙知命(いくめいりひこいさちのみこと)が崇神天皇の次に践祚(せんそ)(天皇の位に就くこと)し、第十一代垂仁(すいにん)天皇となりました。

 崇神天皇の御世(みよ)には疫病(えきびょう)が多く起こり、人々は死んで尽きそうになりました。
 このとき天皇は悲しみ嘆いて神牀(かむとこ)という、夢に神の意を得るために特別に清めた寝床で夜寝ていると、大物主大神(おおものぬしのおおかみ)が夢に現れ、次のようにいいました。

 「これは我が御心(みこころ)である。意富多多泥古(おおたたねこ)に我が御魂(みたま)を祭らせなさい。そうすれば神の祟(たた)りも起こらず、国は安らかに治まるだろう」

 早速、崇神天皇は早馬による使いを四方に派遣し、意富多多泥古という人を探すと、河内之美努村(かわちのみののむら)にその人を見つけました。
 そこで天皇が「あなたは誰の子か」と尋ねると、

 「私は大物主大神が陶津耳命(すえつみみのみこと)の娘の活玉依毘売(いくたまよりびめ)を娶(めと)って生んだ櫛御方命(くしみかた)の子の、飯肩巣見命(いいかたすみのみこと)の子の、建甕槌命(タケミカヅチ)の子の意富多多泥古です」

 と答えました。
 すると天皇は大いに喜び、「天下は治まり、人々は栄える」といって、意富多多泥を神主として、御諸山(みもろやま)に意富美和之大神(おおみわのおおかみ)の御魂を祀らせました。
 また、伊迦賀色許男命(いかがしこをのみこと)に命じて多くの平たい素焼きの皿を作らせ、天神地祇之社(あまつかみくにつかみのやしろ)を定め祀りました。
 また、宇陀墨坂神(うだのすみさかのかみ)に赤色の楯(たて)と矛(ほこ)を祀り、また、大坂神(おおさかのかみ)に黒色の楯と矛を祀り、また坂の尾根の神や河の瀬の神にも、ことごとく残すところなく幣帛(みてぐら)を奉りました。
 これによって疫病はすっかり止み、国は安らかに治まりました。

 さて、この意富多多泥古が神の子であると知ったのには次のような理由がありました。
 活玉依毘売(いくたまよりびめ)はとても美しく、ある夜遅くに突然おとこがやって来ました。そのおとこは、容姿と威厳は比類ないほどでした。
 その夜、二人は惹かれあい、結婚して毎晩一緒に過ごしていると、まだどれほどの時間もたっていないのに、その美しいおとめは妊娠しました。
 そこで父母が、妊娠したことを怪しみ、その娘に次のように聞きました。

 「おまえは自ずと妊娠した。夫もいないのに、なぜ妊娠したのか」

 すると、活玉依毘売は

 「麗(うるわ)しきおとこがいて、その名前も知らないのですが、毎晩私のところにやってきて、一緒に夜を過ごしている間に、自ずから妊娠したのです。」

 といいました。
 父母はそのおとこのことを知りたく思い、娘に

 「赤土(はに)を床の前に散らし、糸巻きに巻いた麻糸(あさいと)を針に通して、その衣の裾(すそ)に刺しなさい」

 と教えました。
 活玉依毘売はいわれたとおりにし、翌朝に見てみると、針でつけた麻糸は戸の鍵穴から通り出て、残った麻糸は三勾(みわ)(三巻という意味。三輪山の「みわ」とかけている)だけでした。
 これにより、そのおとこが小さな鍵穴から出て行ったことを知り、その糸を辿っていくと、美和山(みわやま)に至り、神の社に続いていたので、そのおとこが神の子であると分かりました。
 その麻糸が三勾(みわ)残っていたことにより、その地を美和(みわ)というのです。
 ところで、意富多多泥古命(オホタタネコ)は神君(みわのきみ)、鴨君(かものきみ)の祖です。 
 これが「三輪山伝説」です。


 【崇神天皇の皇子女】
 生母:遠津年魚目目微比売(とほつあゆめまくはしひめ)(紀伊国(きいのくに)(現在の和歌山県)を本拠地とする豪族・木国造(きのくにのみやつこ)、荒河刀弁(あらかはとべ)の娘)
 01、豊木入日子命(とよきいりひこのみこと)(上毛野(かみつけの)、下毛野君(しもつけののきみ)等の祖)
 02、豊鋤入日売命(とよすきいりひめ)(伊勢大神宮(いせのおおかみのみや)を祀った)

 生母:意富阿麻比売(おおあまひめ)(尾張国(おわり)(現在の愛知県)を本拠地とする豪族・尾張連(おわりのむらじ)の祖)
 03、大入杵命(おほいりきのみこと)(能登臣(のとのおみ)の祖)
 04、八坂之入日子命(やさかのいりひこのみこと)
 05、沼名木之入日売命(ぬなきのいりひめのみこと)
 06、十市之入日売命(とをちのいりひめのみこと)

 生母:御真津比売命(みまつひめのみこと)(第8代孝元(こうげん)天皇の皇子・大毘古命(おおびこのみこと)の娘)
 07、伊玖米入日子伊沙知命(いくめいりひこいさちのみこと)
 08、伊邪能真若命(いざのまわかのみこと)
 09、国片比売命(くにかたひめのみこと)
 10、千千都久和比売命(ちちつくわひめのみこと)
 11、伊賀比売命(いがひめのみこと)
 12、倭日子命(やまとひこのみこと)



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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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