皇室と税金は無関係だと思う人も多いことでしょう。ところが、ある部分では非課税ですが、基本的には一般国民と同じ納税の義務があることはあまり知られていません。
天皇家と皇太子家を「内廷(ないてい)皇族」といい、それ以外の皇族を「内廷外皇族」といいますが、内廷皇族には「内廷費」が、そして内廷外皇族には「皇族費」が歳費(さいひ)として国から支払われます。
所得税法第九条は、これら内廷費と皇族費は非課税であると規定しているため、内廷費と皇族費は源泉分(げんせんぶん)が差し引かれることなく満額が支払われます。
皇室に関する予算について、詳しくは第10回「年間の皇室費用は戦闘機1.5機分」を参照してください。
また、相続税法代十二条は、「皇位とともに皇嗣(こうし)が受けた物」は非課税であると規定していて、昭和天皇が崩御(ほうぎょ)あそばして、今上(きんじょう)天皇がお引継ぎになった財産の内、三種の神器関連、儀式関連、古文書(こもんじょ)類、装身具類など合計五八〇件が「御由緒物(ごゆいしょぶつ)」として非課税とされました。
ちなみに三種の神器関連とは、三種の神器の「八咫鏡(やたのかがみ)」、「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」、「八坂瓊曲玉(やさかにのまがたま)」の他、代々皇太子が引き継ぐとされる「壷切の御剣(つぼきりの・ぎょけん)」と、「宮中三殿」(建物)の計五件です。
ところが、所得に関しては、歳費以外は全て、また相続に関しては「御由緒物」以外は全て課税の対象となるのです。
たとえば、かつて紀宮清子(のりのみや・さやこ)内親王殿下が山階(やましな)鳥類研究所にご勤務されていましたが、その給料は源泉所得税が差し引かれていました。その他にも預金の利子、株式の配当金をはじめ、皇族方が講演などで講演料を受け取られた場合や、出版などの印税を受け取られた場合なども、所得税を納税しないといけないことになります。
昭和天皇は生物学者として多くの書籍を出版あそばしましたが、印税はお受けにならず、その分、本をお受け取りになり、その本は各国の研究所、図書館、研究者などに寄贈あそばしたといいます。
また、相続についても、今上天皇は、昭和天皇から相続あそばした遺産九億九五五万七〇〇〇円の内、約四億二八〇〇万円を相続税として納税あそばしました。
それに、昭和天皇の弟宮でいらっしゃる高松宮殿下が薨去(こうきょ)(皇族が亡くなること)あそばした際も、課税遺産は約四一億円で、相続人の同妃喜久子(きくこ)殿下は、評価額約三五〇億円になる東京高輪の御用地を国に寄贈し、葉山にある評価額約十五億円の別邸を売却して納税分を捻出(ねんしゅつ)され、約一四億円の相続税を納税あそばしました。
ところで、高松宮殿下の遺産が、兄の昭和天皇の遺産よりも多額なのは、天皇は土地の所有が認められていないため、遺産に不動産は含まれませんが(宮中三殿だけは例外)、内廷外皇族は土地の所有ができるため、このような多額な遺産になったのです。
地方税については、それぞれお住まいの区が管轄になります。たとえば天皇皇后両陛下は千代田区へ、皇太子殿下をはじめ、赤坂御用地などにお住まいの皇族方は港区に、それぞれ納税あそばします。
ところで王室を持つヨーロッパでは、日本の皇室よりも、王族に非課税特権を与えている国が多くあります。
たとえば、王室に対してノルウェーは完全に非課税で、オランダもほとんど非課税。そして、英国は女王のみ全ての収入が非課税で、その他の王族は課税とされています。一方、スペインは王室にも納税義務を課しています。
さて、日本の皇室が納税の義務を負ったのはいつからでしょうか。かつて大日本帝国憲法下において、天皇および皇族には特権が認められ、納税あそばすことはなかったのです。
それは、日本が太平洋戦争に敗北し、皇族・華族の全ての特権を剥奪するようGHQの指令を受けたからです。これにより、天皇および皇族にも納税の義務があるとされました。
しかも、GHQが命じたのは特権の剥奪だけではありませんでした。当時皇室が保持していた資産のほとんど全てを国有化するように指示したのです。
政府はGHQの圧力により、昭和二十一年、「財産税法」を成立させました。この法律は、十万円以上の財産を持つ全ての国民は、累進課税により、最高九〇パーセントの税金を払わないといけないというものでした。
もちろん天皇家も例外とはされませんでした。これにより、当時の天皇家の総資産三七億四七一二万円のうち、三三億四二六八億円が財産税として納税され、この時、皇居をはじめ皇室御用地のほぼ全てが国有化されたのです。
皇室経済に関しては、占領下に「日本国憲法」と「皇室経済法」「皇室経済法施行法」という法律によって定められたまま、現在に至ります。
皇族は医療保険もなく、いざ大きな病気にかかられた場合は、全て決められた歳費の中でやりくりをしなくてはいけないという問題があるほか、皇位継承権のない愛子内親王殿下は皇太子家なので養育に大きな予算が組める一方、三番目の皇位継承権をお持ちの秋篠宮家の悠仁(ひさひと)親王殿下は、内廷外皇族なので養育に限られた予算しか組めないという矛盾もあります。
そろそろ皇室経済法などを見直してもよいのではないでしょうか。
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