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vol.71 欠史八代(古事記、第二十三話)
 神武天皇が崩御し、多芸志美美命(たぎしみみのみこと)を倒した神沼河耳命(かむぬなかわみみのみこと)は天皇に即位し、第二代・綏靖(すいぜい)天皇となりました。
 『古事記』には、綏靖(すいぜい)天皇から開化(かいか)天皇までの八代の天皇について、崩御の年齢、宮廷の場所、御陵の場所、妻と子供の名前などを記しているだけで、具体的な事績などは明らかにされていません。ですからこの八代の天皇は「欠史八代(けっしはちだい)」と呼ばれることがあります。
 そして、欠史八代は天皇家の歴史を長く見せるために後世に創作されたという考え方もあります。中での孝安(こうあん)天皇と孝霊(こうれい)天皇は百歳以上まで生きたと書かれていることもあり、実在しなかったというのです。
 しかし、欠史八代の天皇は実在したとの強い主張があります。つまり、実在が確実な天皇でも『古事記』『日本書紀』に事績が記されていない天皇も複数あるため、事績が記されていないからといって、直ぐに実在しない天皇と結論することはできないという考え方です。
 また百歳以上生きたというのが不合理であるなら、その記述は無視するのが正しい史料の読み方であり、その不合理とする記述を根拠に導き出した結論は不合理であるはずだから、「百歳以上生きたと書かれているから実在しなかった」との論は不合理な論であるという主張があります。
 いずれにせよ、実在しなかったという根拠は薄く、国家が編纂した正式な歴史書である『古事記』『日本書紀』に記載があるのだから、実在したと考えるのが適当ではないでしょうか。(詳しくは、第62回「神武天皇は実在した」を参照してください。)
 実在の真偽はともかく、『古事記』の八代の天皇の記述には、重要なことも書かれています。それは多くの豪族(ごうぞく)の氏祖注(しそちゅう)(氏族の始まりを記す注釈)が書かれていることです。
 たとえば、間もなく政治に深く関わり、政権を掌握することになる蘇我氏(そがし)の系譜もこの部分に書かれています。
 八代の天皇が実在したかどうか議論があるため、その氏祖注自体も事実ではないという主張があります。でも氏祖注の真偽はともかく、多くの氏族が天皇家から別れた氏族であると『古事記』に記すことにより、多くの豪族がひとつの系譜にまとめられたということを意味します。このような考えに基づいて天皇中心の世の中が作られたということは重要なことです。
 これまで『古事記』には宇宙の始まりから様々な物語が記されていましたが、欠史八代の部分は、誰と結婚して誰を生んだかという記述が延々と続くため、そのまま文章にするととても退屈な文章になってしまうので、『古事記』に書かれたことは、全て一覧表にまとめました。参考にしてください。

 ※ 一覧表はこちらから


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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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