vol.69 神武天皇の崩御と長男の反乱(古事記、第二十二話)
神武天皇が崩(かむあが)りました。
(天皇がなくなることを、「崩御する」もしくは「崩る」という。)
すると、神武天皇が日向(ひむか)にいたときに生まれた、長男の多芸志美美命(たぎしみみのみこと)が、神武天皇の后である伊須気余理比売(いすけよりひめ)を妻にしました。
息子が母親と結婚するというのは、現在では考えられませんが、当時は先帝の后を妻にすることは、王位の継承者であることを示す意味があったのです。
伊須気余理比売は神武天皇が大和の地に来てから娶(めと)った女性なので、多芸志美美命の実の母親ではありませんが、母であることに変わりはありません。
しかし、多芸志美美命は三人の弟を殺そうとして陰謀をめぐらせていました。すると、伊須気余理比売は憂い苦しみ、子供たちに陰謀のことを伝えるために、次のような歌を詠みました。
狭井河(さいがわ)よ 雲立(くもた)ちわたり 畝火山(うねびやま 木(こ)の葉騒(さや)ぎぬ 風吹かむとす
(狭井河から雲が立ちのぼり、畝傍山の木の葉が鳴り騒いでいる。風が吹こうとしている。)
そして、続けて詠んだ歌は、
畝火山 昼は雲とゐ 夕されば 風吹かむとぞ 木の葉騒(さや)げる
(畝傍山は昼間は雲が流れ動き、夕方になると風が吹こうとして、木の葉がざわめいている。)
すると、その御子たちは兄の陰謀を知って、すぐに多芸志美美命を殺そうとしたとき、一番下の弟の神沼河耳命(かむぬなかはみみのみこと)が、ひとつ上の兄、神八井耳命(かむやいみみのみこと)に次のようにいいました。
「あなたさま。兄上が武器を持って、多芸志美美命を殺してくださいませ。」
ゆえに、神八井耳命が武器を持って入り殺そうとしたとき、手足がぶるぶると震えて、殺すことができませんでした。
そこで、弟の神沼河耳命が、その兄の持っていた武器を受け取って入り、多芸志美美命を殺しました。
そのようなわけで、その名前をたたえて「建沼河耳(たけぬなかはみみのみこと)」といいます。
ここで、兄の神八井耳命は、弟の建沼河耳に譲り、
「私は仇(かたき)を殺すことができなかった。あなたは仇を見事に殺した。ゆえに、私は兄ではあるけれども、天皇とはならず、これをもってあなたが天皇となり、天(あめ)の下を治めなさい。私はあなたを助け、祭りを行う人として仕えましょう。」
といいました。
ゆえに、その日、神沼河耳命天皇となり、が天の下を治めることになりました。
日子八井命(ひこやいのみこと)は、茨田連(まむたのむらじ)、手島連(てしまのむらじ)の祖であり、
神八井耳命は、意富臣(おほのおみ)、小子部連(ちひさこべのむらじ)、坂合部連(さかひべのむらじ)、火君(ひのきみ)、大分君(おほきたのきみ)、阿蘇君(あそのきみ)、筑紫三家連(つくしのみやけのむらじ)、雀部臣(さざきべのおみ)、雀部造(さざきべのみやつこ)、小長谷造(をはつせのみやつこ)、都祁直(つけのあたひ)、伊余国造(いよのくにのみやつこ)、科野国造(しなののくにのみやつこ)、道奥石城国造(みちのくのいはきのくにのみやつこ)、常道仲国造(ひたちのなかのくにのみやつこ)、長狭国造(ながさのくにのみやつこ)、伊勢船木直(いせのふなきのあたひ)、尾張丹羽臣(をはりのにはのおみ)、島田臣(しまだのおみ)等の祖であります。
この古事記が編纂されたのは七世紀ですが、当時の廷臣だった多くの氏族について、天皇家と血のつながりがある家として、このように古事記に記したため、このような記述があります。
神倭伊波礼毘古天皇(かむやまといわれびこのすめらみこと)(神武天皇のこと)の御年(みとし)は百三十七歳。御陵(みはか)は畝火山(うねびやま)の北方の白檮尾(かしのを)の辺りにあります。
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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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