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vol.66 天皇号
 日本史の教科書には多くの天皇が登場します。「推古(すいこ)天皇」「桓武(かんむ)天皇」「亀山(かめやま)天皇」「明治天皇」などなど、それら「○○天皇」というのは「天皇号」と呼ばれています。天皇号は天皇の崩御の後におくられるものであり、生前に天皇号で呼ばれることはありません。現在、民間人にも死後に死後の名前である「戒名(かいみょう)」がおくられることがあるので、天皇号はそのようなものと考えるとわかりやすいでしょう。
 たとえば、昭和天皇は生前に「昭和天皇」と呼ばれることはありませんでした。崩御の後に、元号である「昭和」が追号として決定し、「昭和天皇」という天皇号がおくられたのです。現在の天皇のことは「今上(きんじょう)天皇」もしくは「天皇陛下」というのが正しいのです。
 天皇号には諡号(しごう)と追号(ついごう)の二種類があります。「諡号+天皇」の場合と、「追号+天皇」のいずれかの形になります。諡号とは天皇の生前の御聖徳を称えるもので、「神武(じんむ)天皇」「称徳(しょうとく)天皇」「光孝(こうこう)天皇」「安徳(あんとく)天皇」などが挙げられます。
 また、追号には何種類かパターンがあり、天皇の御在所の地名、御陵の地名、先の天皇の追号に一字を加えるもの、そして二代の天皇の追号から一字ずつをとって追号とするものなどがあります。次にパターンごとに例を挙げることにしましょう。
 天皇の御在所の地名からとった例としては、「平城(へいぜい)天皇」「嵯峨(さが)天皇」「淳和(じゅんな)天皇」「清和(せいわ)天皇」など二十七例があり、また御陵の地名からとった例として、「醍醐(だいご)天皇」「村上(むらかみ)天皇」「東山(ひがしやま)天皇」の三例があります。
 そして、先の天皇の追号に一字を加える例では、父子関係、御在所が同じ場合、その天皇の御聖徳を敬して用いられる場合など、たとえば「後一条(ごいちじょう)天皇」「後白河(ごしらかわ)天皇」「後醍醐(ごだいご)天皇」など、二十六例があります。
 また特殊な例として、二代の天皇の追号から一字ずつをとって追号とすることもあります。「称徳(しょうとく)天皇」と「光仁(こうにん)天皇」から一字ずつとって「称光(しょうこう)天皇」とした場合、「明正(めいしょう)天皇」と「元明(げんめい)天皇」から一字ずつとって「元正(げんしょう)天皇」とした場合、そして「孝霊(こうれい)天皇」と「孝元(こうげん)天皇」から一字ずつとって「霊元(れいげん)天皇」とした場合の三例が挙げられます。

 天皇の崩御後に諡号乃至(ないし)追号をおくる制度は、大宝令・養老令で定められました。大宝三年(七〇三)に持統(じとう)天皇の大葬(たいそう)で「大倭根子天之広野日女尊(おおやまとねこあめのひろのひめのみこと)」という諡号がおくられたのが最初の記録です。上古においては二・三文字から成る漢風(かんふう)諡号ではなく、このように多くの漢字でつづる国風(こくふう)諡号が用いられました。そして、奈良時代後期には初代・神武天皇以降の天皇にも国風諡号とは別に漢風諡号がおくられました。
 さて、天皇を天皇と呼ぶのは当然と思うでしょうが、実は平安時代中期の第63第・冷泉(れいぜい)天皇が「冷泉院」と号されてから、江戸後期に第119代・光格(こうかく)天皇が「諡号+天皇」の「光格天皇」という天皇号がおくられるまでのおよそ九百年間は、天皇号自体が長らく中断していたのです。その間は「冷泉院」「後鳥羽(ごとば)院」という具合に、「追号+院」という形で呼ばれるに過ぎず、「○○天皇」とはされませんでした。
 光格天皇の後、続けて「仁孝(にんこう)天皇」「孝明(こうめい)天皇」というように、「諡号+天皇」の例が続きました。光格天皇のときにおよそ九百年ぶりに天皇号が復活したのは、江戸後期から幕府の権力に陰りが見え始める中、朝廷の権威が急速に高まったことが大きな原因でした。王政復古へのきっかけを作った天皇が光格天皇であり、朝廷の権威が回復するきっかけを作ったその偉業は天皇号がおくられることで大きく称えられたのでした。
 そして、明治時代以降には「追号+天皇」とする新しい慣習が成立しました。明治以降は天皇一代に一元号とする旨が決められ、明治天皇以降は元号を追号とすることになり、「明治天皇」「大正天皇」「昭和天皇」と続き現在に至ります。したがって、この慣習を踏襲(とうしゅう)するならば、現在の天皇陛下も将来「平成天皇」という天皇号がおくられると思われます。


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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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