皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.43 出雲の国譲り(古事記、第十三話)
 大国主神(おおくにぬしのかみ)の子である八重言代主神(やへことしろぬしのかみ)が、葦原中国(あしはらの・なかつくに)を天照大御神(あまてらすおおみかみ)にお返ししましょうといいました。
 そこで、高天原から遣わされた建御雷神(たけみかづちのかみ)と天鳥船神(あめのとりふねのかみ)の二柱(ふたはしら)の神は、大国主神に、
 「お前の子の言代主(ことしろぬし)はこのようにいったが、他に申す子はいるか」と尋ねると、大国主神は、
 「もう一人我が子、建御名方神(たけみなかたのかみ)がいます。これ以外に意見を申す者はいません。」と答えました。
 大国主神がこのように話している間に、建御名方神が千人がかりで引くほどの大きな岩を手の先でもてあそびながらやってきました。建御名方神が「我が国にやってきて、こそこそと隠れて物言うのは一体誰だ。ならば力比べをしてやろうじゃないか。私が先に手を取ってみせよう。」
といって、建御雷神の手を取ったとき、たちまち建御名方神の手は氷の柱に変化し、それは間もなく剣となって建御名方神を襲おうとしたのです。これに驚いた建御名方神は懼れて退きました。
 今度は建御雷神が建御名方神の手を掴みにかかります。建御雷神は若い葦を握りつぶすことの如く、建御名方神の手を握りつぶし、たちどころに遠くへ投げ飛ばしました。
 命の危険を感じた建御名方神は逃げました。建御雷神がこれを追いかけていき、科野国(しなののくに)の州羽(すわ)の海(現在の長野県の諏訪湖)に追い詰め、殺そうとしたとき、建御名方神は
 「どうか私を殺さないで下さい。今後この地から他へは行かないことにします。また、父大国主神の命令に背くことも致しませんし、八重言代主神の言うことにも背きません。この葦原中国は、天津神の御子の命ずるまま献上いたします。」といいました。
 建御雷神と天鳥船神の二柱の神はまた帰ってきて、大国主神に、
 「あなたの二人の子ども、事代主神と建御名方神は天津神の御子の考えに背かないといっていたが、あなたの心はいかに。」と聞きました。
 大国主神はここに次のように答えました。
 「私の子ども、二柱の神のいうとおり、私も背くつもりはありません。この葦原中国は命令にしたがって差し上げることにいたしましょう。ただ、天照大御神が天津日継(あまつひつぎ)(皇位のこと)をお受けになる、光り輝く宮殿のように、地盤に届くほどの宮柱を深く掘り立て、高天原に届くほどの千木(ちぎ)を高く立て、そのように壮大な宮殿に私が住み、祀られることをお許し下さい。それが許されるのであれば、私は多くのまがり込んだ道を隔てていくほどの片隅の国に隠れて留まることに致しましょう。また、それ以外の私の子どもたち、百八十神(ももやそがみ)は、八重言代主神が、神々の先頭に立ち、神々を統率するならば、それに背く神はいません。」と答えました。
 このように申し上げると、大国主神は、出雲国(いずものくに)の海岸近くに立派な宮殿(現在の出雲大社)をつくり、水戸神(みなとのかみ)(河口を掌る神)の孫の櫛八玉神(くしやたまのかみ)が料理をして天御饗(あめのみあへ)を献上しました。
 その時、祝いの言葉を申し上げた櫛八玉神は、鵜に姿を変え、海の底に潜り、底の赤土(はに)を加えてきて、たくさんの平らな皿を作り、海藻の茎を刈って火を起こす板を作り、海藻の茎を火起こしの杵(きね)にして火を起こし、次のようにいいました。

 私が鑽(き)り出した火は、高天原では、神産巣日御祖命(かみむすひのみおやのみこと)の宮殿の煤が垂れ下がるまで焚き上げる火であり、また地の下では、岩盤を焚き固まらせる火です。白く長い縄を海に投げ入れて、海女が釣った口が大きく尾ひれの立派な鱸(すずき)を、引き寄せてあげて、竹で編んだ器がたわむほど、たくさんの魚料理を献上します。

 そして、建御雷神は、高天原に帰り、葦原中国を説得して平定した様子を、報告したのです。これが古事記に記された出雲の国譲り物語です。

 そこで、天照大御神と高御産巣日神(たかみむすひのかみ)は太子(ひつぎのみこ)(皇太子のこと)である正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)に詔して、
 「今、葦原中国を説得して平定したと報告があった。よって、委任したとおりに、葦原中国に降って、国を治めなさい。」といいました。
  太子の正勝吾勝勝速日天忍穂耳命は、
 「私が降る準備をしている間に、子どもが生まれました。名は天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸(あめにきしくににきしあまつひこひこほのににぎのみこと)命といいます。この子を葦原中国に降ろすべきでしょう。」といいました。
 この御子は、高御産巣日神の娘、万幡豊秋津師比売命(よろづはたとよあきづしひめのみこと)との間に生まれた子です。天火明命(あめのほあかりのみこと)と日子番能邇邇芸の二柱です。
 このようなことで、日子番能邇邇芸命に「この豊葦原水穂国(とよあしはらのみづほのくに)(葦原中国のこと)は汝が治める国であると委任する。よって、命令の通りに天降りなさい」との詔がありました。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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