皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.41 建御雷神(たけみかづちのかみ)(古事記、第十二話)
 天菩比神(あめのほひのかみ)が葦原中国(あしはらのなかつくに)に行ったまま3年も連絡をよこさなかったので、高天原(たかまがはら)にいる高御産巣日神(たかみむすひのかみ)と天照大御神(あまてらすおおみかみ)は困り果て、再び諸々の神たちに問いました。
 その時、思金神(おもひかねのかみ)が「天津国玉神(あまつくにたまのかみ)の子の天若日子(あめのわかひこ)を遣わすべきです」と提案したので、天之麻迦古弓(あめのまかこゆみ)(鹿を射るための弓)と天之波波矢(あめのははや)(羽のついた矢)を天若日子に賜り、葦原中国に遣わすことになりました。
 かくして天若日子は葦原中国に降り立ったのですが、大国主神(おおくにぬしのかみ)の娘・下照比売(したてるひめ)と結婚し、この国を自分のものにしようと企むようになりました。そして8年の歳月が流れました。
 いよいよ困った高御産巣日神と天照大御神は、また諸々の神たちに問いました。「天若日子が久しく帰ってこない。天若日子が留まっている理由を聞きたいのだが、どの神を遣わしたらいいだろか」と。すると思金神は「雉、つまり鳴女(なきめ)を使わすべきです」と答えました。
 そして鳴女が天若日子の所に遣わされました。天から降りた鳴女は天若日子の家の門の楓(かえで)の木に止まり、「汝を葦原中国に遣わしたのは、その国の荒ぶる神どもを説得させて従わせるためである。なぜ8年もの間戻らず、連絡もしないのか」と、天津神から預かった詔を正確に伝えました。
 鳴女のいうことを聞いた天佐具売(あまのさぐめ)(陰密なものを探り出す巫女)は、これを凶と判断し、「この鳥は、鳴き声がよくないから、射殺すべき」といって扇動(せんどう)し、天若日子は天津神から賜った弓と矢で、その雉を射殺してしまったのです。ところで、天佐具売は「あまのじゃく」の語源になったといわれています。
 雉の胸を貫通した矢は空へ高く上り、天安河(あめのやすのかわ)の河原にいた高御産巣日神と天照大御神のところに飛んでいきました。
 事情を知らない高御産巣日神は、その矢を手にとって眺め、驚きました。血が付いた矢は、天若日子に賜った矢だったのです。そこでまた諸々の神たちを集めてその矢を見せ、「もし天若日子が命令に背かず、悪しき神を射た矢が届いたのであれば天若日子に当たるな。もし邪心があったならば、天若日子はこの矢にあたって死ね。」といって、その矢を取り、矢でできた穴から衝き返し下したら、矢は寝ている天若日子の胸に当たって、天若日子は死にました。
 結局、鳴女は帰りませんでした。「雉の頓使」(きぎしのひたづかい)ということわざの語源はここにあります。

 葦原中国への神の派遣はこれまでことごとく失敗に終わってきました。天照大御神が「またどの神を遣わしたらよいだろうか」と問うと、思金神と諸々の神たちは次のように提案しました。
 「天安河の河上の天石屋(あめのいわや)にいる伊都之尾羽張神(いつのをはばりのかみ)を遣わすべきです。もしこの神でなければ、その神の子、建御雷之男神(たけみかづちのをのかみ)を遣わすべきです。天尾羽張神(あめのおはばりのかみ)(伊都之尾羽張神の別名)は天安河の水を塞(せ)き止めて道を塞(ふさ)いでいるので、他の神はそこへ行くことができません。ですから、天迦久神(あめのかくのかみ)を遣わして尋ねさせるべきです。」
 そこで天迦久神を遣わして天尾羽張神に尋ねると、「かしこまりました。仕え奉ります。しかし、このお役には我が子、建御雷神(たけみかづちのかみ)を遣わすべきでしょう。」と答えたので、天鳥船神(あめのとりふねのかみ)を建御雷神に副(そ)えて遣わしました。
 ところで、雷は船に乗って天空と地上を行き来するものと考えられています。また、建御雷神は第09回と第13回で、伊邪那岐命(いざなぎのみこと)が十拳剣(とつかのつるぎ)で、その子迦具土神(かぐつちのかみ)の首を斬った時に、刀の根元についた血が、飛び散って成り出でた神のうちの一柱です。
 二柱の神は出雲国の伊那佐之小浜(いなさのをばま)に降り立ち、建御雷神は十掬剣(とつかのつるぎ)を抜き、逆さまに波の先に刺し立て、その剣先にあぐらして座りながら、大国主神に「天照大御と高御産巣日神の命によって遣わされた。汝が治める葦原中国は、我が御子の統治する国であるぞ。汝の考えはいかがなものか」と尋ねました。
 すると大国主神は「私は申し上げるわけにいきません。我が子の八重言代主神(やへことしろぬしのかみ)が申し上げることでしょう。けれども、息子は鳥を狩に、また魚を釣りに御大(みほ)の岬(美保の御崎)までいったまま、帰っていません。」と答えました。
 そこで天鳥船神を遣わして、八重言代主神を呼んできて問うたときに、父の大国主神に「かしこまりました。この国は、天津神の御子に奉りましょう。」といい、その船を踏んで傾け、天の逆手(あめのさかて)という特殊な拍手を打って船を青柴垣(あおふしがき)に変えて、その中に隠れました。
 ここにきて俄かに国譲りが実現しそうになりましたが、まだもうひと悶着おこります。それは次回のお楽しみ。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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