皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.39 葦原中国(あしはらのなかつくに)(古事記、第十一話)
 大国主神(おおくにぬしのかみ)と須勢理毘売(すせりひめ)は歌を詠んで愛を確かめ合いました。大国主神は須勢理毘売の嫉妬に悩まされながらも、その後、領土を広げながら三人の妻を迎え入れ、子孫を繁栄させました。古事記には妻と子ども、そしてその子孫の名前の数々が記されています。
 大国主神が出雲の御大(みほ)の御前(みさき)(美保碕・みほのさき、現在の島根県美保関町の地蔵崎)にいたとき、海の彼方から天之羅摩船(あめのかがみぶね)(ガガイモで作った船)にのって、峨(が)の皮をまるはぎにした衣服を着てやってくる、小さな小さな神がありました。
 大国主神がその神に名前を問うも、答えず、周囲の神たちに聞いても皆知りませんでした。このとき谷蟆(たにぐぐ)(ヒキガエルのこと・谷でグーグーと鳴いているのが語源)が「崩彦(くえびこ)が知っているでしょう」と申したので、崩彦を呼んで聞いてみました。崩彦は案山子(かかし)のことで、一本足だから歩くことはできませんが、天下(あめのした)のことをよく知っている神です。
 すると崩彦は「この方は、神産巣日神(かみむすひのかみ)の御子、少名毘古那神(すくなびこなのかみ)でいらっしゃいます」と答えました。
 神産巣日神は古事記の冒頭の天地開闢(てんちかいびゃく)、つまり宇宙の起源のところで、天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)に続けて三番目にこの世に現れた神で、天照大御神よりも遥かに古い神です。そして、大国主神が昔、八十神に殺されたときに、生き返られてくれたのも、神産巣日神でした。
 大国主神が神産巣日神に伺いを立ててみると「それは自分の子である。私の手の指の間から生まれた子である。お前と兄弟になってその国を作り堅めなさい」とおっしゃいました。
 これにより、大国主神と少名毘古那神の二柱の神は、共に並んでこの国を築き上げました。その後に少名毘古那神は、常世国(とこよのくに)に行ってしまいました。
 よき相棒を失った大国主神は悲しみ「自分一人でどうやって国を作っていったらよいのだろう。どの神と私とがこの国を作ればよいだろうか」といいました。
 この時に海を照らしてやってくる神がいました。大物主神(おおものぬしのかみ)です。その神は「しっかりと私を祭るならば、私が一緒に国を作ろう。もしそうでないなら、国は成り立たないだろう」といいました。
 大国主神が「ではどのようにして治め奉ればよいでしょうか」と尋ねると、大物主神は「私を大和の国を青垣のようにめぐっている山の内の、東の山の上に祭りなさい」と答えました。そしてこの神は御諸山(みもろやま)、つまり三輪山の上に鎮座する神となります。

 大物主神の話しが終わると、古事記は須佐之男命(すさのをのみこと)の子に当たる、大年神(おおとしのかみ)の妻子とその子孫を紹介しています。大年神の系譜は須佐之男命から先の国津神の重要な系譜と考えられています。

 大国主神は少名毘古那神と大物主神の力をかりて、ついに葦原中国(あしはらのなかつくに)を完成させ、国作りを終えました。葦原中国は大変な賑わいを見せ、その様子は高天原にも伝わりました。
 天照大御神は「豊葦原の千秋長五百秋の水穂の国(とよあしはらの・ちあきの・ながいほあきの・みずほのくに)(葦原中国を装飾したことば)は、わが子、正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)が治めるべき国である」とおっしゃり、天降(あまくだ)りさせました。
 天忍穂耳命が天の浮橋(あめのうきはし)(天と地の境にある橋)に立って「豊葦原の千秋五百秋の水穂の国は、ひどく騒がしい」とおっしゃり、再び帰って天照大御神にそのように申し上げました。
 そこで、高御産巣日神と天照大御神は天安河(あめのやすのかわ)(高天原にはる川)の河原に、八百萬(やおよろず)の神を集めさせ、思金神(おもひかねのかみ)に思案させて、次のように詔しました。
 「この葦原中国は、我子の治める国と委任した国である。しかし、この国には荒ぶる国津神どもが多いと思われる。どの神を使わして荒ぶる神たちを説得させるべきだろうか」
 ここに、思金神はじめ八百萬の神が相談し、「天菩比神(あめのほひのかみ)を使わすべきです」といいました。
 そして、天菩比神を遣わしたのですが、大国主神に媚びへつらってしまい、三年経っても報告に戻ることはありませんでした。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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