天皇の墓は「陵」(みささぎ)といい、一般的には「天皇陵」(てんのうりょう)、「御陵」(ごりょう)などといわれています。
皇室制度について規定する法律「皇室典範」(こうしつてんぱん)は「天皇、皇后、太皇太后(たいこうたいごう)及び皇太后(こうたいごう)を葬る所を陵、その他の皇族を葬る所を墓」と規定しています。
(「皇太后」は先帝の后、「太皇太后」は先々帝の后を意味する。)
初代の神武天皇(じんむてんのう)から第124第・昭和天皇(しょうわてんのう)までの124の天皇陵をはじめ、陵に準じるものと墓を合わせると、その総数は全国で896にのぼり、現在これらは全て宮内庁書陵部(くないちょうしょりょうぶ)が管理しています。
天皇陵の中で最も有名なのは、歴史の教科書に必ず登場する「仁徳天皇陵」(にんとくてんのうりょう)、つまり「大仙陵古墳」(だいせんりょうこふん)ではないでしょうか。
墳丘の長さ486メートルの前方後円墳(ぜんぽうこうえんふん)で、三重の堀を持ち、本陵だけで46.4万平方メートルの面積を誇る仁徳天皇陵は、天皇陵の中で最大規模であり、エジプトのクフ王のピラミッド、中国の秦の始皇帝陵と並ぶ世界三大陵墓の一つといわれています。
天皇の埋葬施設として古墳が作られた時代は三世紀から七世紀にかけてのおよそ400年、その間、時代とともに古墳の形式は変化し、前方後円墳だけでなく、前方後方墳、円墳、方墳、八角墳、上円下方墳など様々な形の古墳が作られました。
しかし、このように成熟してきた古墳の文化も、仏教の影響を受けて大転換を余儀なくされます。大宝(たいほう)2年(702)に持統天皇(じとうてんのう)の大葬(たいそう)(天皇の葬儀のこと)にあたり、天皇が火葬される先例が開かれると、俄かに古墳が衰退し、石塔などに取って代わられることになります。
京都には、皇室の菩提寺として知られる泉涌寺(せんにゅうじ)(京都市東山区)があり、そこには鎌倉時代の後堀河天皇(ごほりかわ−)、四条天皇(しじょう−)をはじめ、江戸時代の後水尾天皇(ごみずのお−)以下幕末に至る歴代天皇の陵があります。
ところが、泉涌寺にある陵は、古墳時代の巨大な天皇陵に比べると、極端に小さなものです。狭いところに、ぎっしりと天皇を埋葬した石塔が立ち並ぶ様子を見て驚く人も多いのではないでしょうか。
しかし、幕末になると、孝明天皇(こうめい−)の埋葬にあたり、慶應3年(1867)およそ1000年ぶりに大規模な山稜が造営されることになりました。
孝明天皇の治世は、幕府が急速にその権威を失墜させ、その一方で朝廷の権威が上昇した時代でした。孝明天皇が崩御する頃には討幕への機運が高まっており、孝明天皇は特別な存在でした。
そのような政治的状況から、古式に則った陵の形式を復活させて、泉涌寺の後山に大規模な円墳が造営されることになったのです。孝明天皇陵は「月輪東御陵」(つきのわのひがしのみささぎ)と呼ばれています。
それ以降、現在に至るまで、天皇陵は古墳時代の山稜の形式がとられています。孝明天皇の皇子にあたる明治天皇の御陵は、上円下方墳で、父帝よりさらに大規模なものでした。「伏見桃山御陵」(ふしみももやまごりょう)(京都市伏見区)と呼ばれています。
ところで、明治天皇は明治神宮(東京都渋谷区)に埋葬されていると勘違いしている人が多いようですが、祀られているも埋葬されているわけではありません。明治天皇陵は京都市にあります。
大正天皇以降は、山稜造営の舞台は京都から東京に移りました。大正天皇と昭和天皇の御陵は東京都八王子市の武蔵陵墓地(むさしりょうぼち)にあります。
現在宮内庁が管理する天皇陵は、江戸時代から明治時代にかけて選定されたもので、中には考古学の学説と食い違うものもあります。
たとえば、宮内庁は太田茶臼山古墳(おおたちゃうすやまこふん)を継体天皇陵(けいたいてんのうりょう)としていますが、考古学上の通説は、今城塚古墳(大阪市高槻市)こそが継体天皇陵であると考えています。
近年、今城塚古墳(いましろづかこふん)が発掘調査され、動物・人物・建物などをかたどった大量の埴輪(はにわ)が出土して話題になりました。
宮内庁は全ての天皇陵について発掘調査を認めていません。天皇陵にはたくさんのミステリーが詰まっているといえるでしょう。
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写真1 仁徳天皇陵「大仙陵古墳」(大阪府堺市)出典:ウィキペディア |
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写真2 神武天皇陵「橿原御陵」(奈良県橿原市)撮影:竹田恒泰 |
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写真3 孝明天皇陵「月輪東御陵」(京都市東山区)撮影:竹田恒泰 |
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写真4 明治天皇陵「伏見桃山御陵」(京都市伏見区)撮影:竹田恒泰 |
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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