vol.25 天の岩屋戸(あめのいわやと)(古事記、第六話)
天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天の岩屋戸(あめのいわやと)にお隠れになると、高天原(たかまがはら)と葦原中国(あしはらのなかつくに)(地上のこと)がことごとく真っ暗になってしまいました。
八百万の神々(やおよろずのかみ)(大勢の神々のこと)は困りに困り、天の安河原(あめのやすがわら)に集まって、いろいろと考えを巡らせましたが、よい考えはなく、結局は「智恵の神」で知られる思金神(おもいかねのかみ)に相談することに決めました。
思金神は高御産巣日神(たかみむすひのかみ)(高天原三神のうちの一柱)の子で、思慮(しりょ)を兼ね備えた神です。思金神の考えた方策は「祭り」でした。さっそく神々は祭りの準備にとりかかります。
まず、常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)(ニワトリのこと)が集められ、一斉に鳴かされました。ニワトリが鳴くと太陽が昇ることから、ニワトリを鳴かせることは太陽の出現をそくす呪術だったのです。
つぎに、天の安河(あめのやすかわ)の上流にある天の堅石(あめのかたしは)(鉄を鍛えるのに使う)を取り、天の金山(あめのかなやま)(高天原の鉱山)の鉄を取り、鍛冶屋を探して、伊斯許理度売命(いしこりどめのみこと)に命じて鏡を作らせ、また玉祖命(たまのおやのみこと)に命じて八尺勾瓊(やさかのまがたま)の五百箇之御統之珠(いほつのみすまるのたま)(多くの玉を緒に通したもの)を作らせました。これで必要な神器は揃いました。
ちなみに、このとき作られた玉と鏡が、後々高天原から地上にもたらされ、やがて天皇の皇位の印である「三種の神器」の内のふたつの神器になります。
そして、天児屋命(あめのこやねのみこと)と布刀玉命(ふとたまのみこと)に占いをさせると、にぎやかな祭りが始まりました。
天の香山(あめのかぐやま)の、枝ぶりよく茂った榊(さかき)を根ごと掘り出して、上の枝には八尺勾瓊の五百箇之御統之珠を取り付け、また中の枝には八尺鏡(やたのかがみ)を取り付け、下の枝に木綿と麻の布を取り垂らし、この見事な供え物を布刀玉命が取り持ち、天児屋命が祝福の祝詞を奏上しました。
天照大御神が隠れる天の岩屋戸のすぐ脇には、腕力の神様である天手力男神(あめのたぢからおのかみ)が隠れ立ち、戸が緩むのを待ちました。
神楽が始まりました。踊り手は天宇受売命(あめのうずめのみこと)です。逆さまにした桶を踏み鳴らし、神懸り(かむがかり)して、豊かな胸をあらわに出して、服の紐を陰部のところまで押し下げました。すると高天原がどよめき、八百万の神々がどっと笑ったのです。
すると、天照大御神が不審に思って天の岩屋戸を細めに開き、内側から次のようにいいました。
「自分が洞窟の中に籠もっているから、高天原も葦原中国も暗闇のはずだけど、天宇受売命は歌舞いをし、八百万の神々もみな笑っているのは、いったいどうしてなのだろう?」
天宇受売命がそれに答えて、「あなたさまよりも尊い神がいらっしゃいます。それゆえに、我々はよろこび、わらい、そして舞っているのです」といって羞恥心を駆り立てました。
このようにいう間、天児屋命と布刀玉命が、天の岩屋戸の隙間に八尺鏡を差し入れました。天照大御神は鏡に映る自らの姿を見て、自分と同じような太陽の神が別にいると勘違いし、びっくりしてしまいました。
そして、天照大御神がゆっくりと岩屋戸から外をのぞこうとしたとき、戸の脇に隠れていた天手力男神が、大御神の手をつかんで外へ引き出し、すかさず布刀玉命が、後方にしめ縄を張って、「これより中に戻ってはなりませぬ!」といいました。
かくして、天照大御神が天の岩屋戸から出てきたので、高天原と葦原中国に、再び明かりが戻ったのです。
天照大御神が岩屋戸に隠れてしまわれたのは、須佐之男命(すさのをのみこと)の横暴が原因でした。八百万の神々は議論をした結果、須佐之男命には罪穢れを祓うための品物を負わせ、髭を切り、手足の爪を抜いて、ついに高天原から追放してしまいます。
追放された須佐之男命は、道中お腹が空いたので、大気津比売神(おおげつひめのかみ)に物乞いをしました。大気津比売神は、鼻・口・尻から、いろいろな美味しそうな食べ物を取り出して、料理して差し出しました。
すると須佐之男命は、その様子を見て、大気津比売神が食べ物をわざと穢して差し出したのだと勘違いしてしまいます。須佐之男命は大気津比売神を殺しました。
たいへんなことになりました。つづきは次回をお楽しみに。
写真1 天の安河(あめのやすかわ)。天照大御神が隠れた天の岩屋戸の前を流れている川。「岩戸川」とも呼ばれる。
写真2 神楽尾(かぐらお)。この場所で天宇受売命(あめのうずめのみこと)が神楽を踊ったとされる。神楽尾は天の岩屋戸を眼下に望む高台にある。

写真3 神楽尾から眺める天の岩屋戸の鎮守の森。正面の茂みの下辺中央辺りに天の岩屋戸がある。現在は「天岩戸神社」(あまのいわとじんじゃ)となっている。
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