皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.21 アマテラスとスサノヲ(古事記、第五話)
 葦原中国(あしはらのなかつくに)から追放された須佐之男命(すさのをのみこと)は、黄泉の国(よみのくに)にいる母に会いに行く前に、高天原に上り、姉である天照大御神(あまてらすおおみかみ)に報告することにしました。

 須佐之男命は追放されて心が荒ぶっていたので、天に舞い上るとき、山・川・土はことごとく揺れ動きました。

 その異様な事態に驚いた天照大御神は「我弟が高天原にやってくるのは、きっと何かたくらみがあるからに違いない、国を奪うつもりかもしれない」といい、完全武装して弟が来るのに備えました。

 天照大御神は髪を解いて、左右に分けて耳の辺りで束ねました。戦いに備えて男装したのです。そして髪と左右の手にはたくさんの大きな勾玉を紐で繋いだものを巻き持ち、そして背には千本の矢を入れられる靫(ゆぎ)(矢を入れる武具)を、また脇には五百本の矢を入れられる靫をつけ、稜威竹鞆(いつのたかとも)(「鞆」は左肘につける皮製の武具で、弓の反動を受けるもの)を装着し、弓の末を起こして、堅い地面に股まで踏み入れ、地を雪のように踏み散らかし、威勢よく雄叫びをあげ、臨戦態勢で弟と対峙しました。

 「なぜ高天原にやったきたのか」と問うと、須佐之男命は「やましい心はありません」といい、父・伊邪那岐神(いざなきのかみ)との話の成り行きを話し、その報告のためにやってきたのだといいました。

 しかし、姉の天照大御神は簡単には納得しません。そこで須佐之男命は「うけい」をして子どもを産むことを提案します。「うけい」とは、あらかじめ決めた通りの結果が現れるかどうかで吉凶を判断する占いの一種です。


 二人は天安河(あめのやすかわ)(高天原に流れる河)を挟んで立ち、はじめに天照大御神が、須佐之男命の帯びていた十拳剣(とつかのつるぎ)を手に取って、三段に打ち折り、勾玉をゆらゆらと揺らしながら天之真名井(あめのまない)(高天原にある、神聖な水を汲む井戸)の水ですすぎ、噛みに噛んで、吹き出した息の霧に現れた神の名は、多紀理毘売命(たきりびめのみこと)。

 続けて現れたのは市寸島比売命(いちきしまひめのみこと)、そして次ぎに現れたのは多岐都比売命(たきつひめのみこと)。須佐之男命の剣からは三柱の神が生まれたのです。


 そして今度は須佐之男命が、天照大御神の左の角髪にまいてあった勾玉を手に取り、ゆらゆらと揺らしながら天之真名井の水ですすぎ、噛みに噛んで、吹き出した息の霧に現れた神の名は正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)。

 右の角髪にまいてあった勾玉を、噛みに噛んで、吹き出した息の霧に現れた神の名は天之菩卑能命(あめのほひのみこと)。

 縵(かづら)(つる草を輪にして頭にまとったもの)にまいてあった勾玉を、噛みに噛んで、吹き出した息の霧に現れた神の名は天津日子根命(あまつひこねのみこと)。

 左手にまいてあった勾玉を、噛みに噛んで、吹き出した息の霧に現れた神の名は活津日子根命(いくつひこねのみこと)。

 右手にまいてあった勾玉を、噛みに噛んで、吹き出した息の霧に現れた神の名は熊野久須毘命(くまのくすびのみこと)。

 このように天照大御髪の勾玉から五柱の神がうまれたのです。


 「うけい」が終わると、天照大御神は「後に生まれた五柱の男の子は、自分の物から生まれたから自分の子です。先に生まれた三柱の女の子は、あなたの物から生まれたから、あなたの子です」といいました。

 すると須佐之男命は「自分の心が明るく清いから、たおやかな女の子が生まれたのです。だから私の勝ちだ」といい、勝ち誇ったように、高天原で暴れました。

 須佐之男命は、天照大御神の田の畔(あぜ)を壊し、溝を埋め、しかも大嘗(おおにえ)(神に新穀を供える神事)を行う神聖なる御殿に糞をまき散らしました。

 須佐之男命のひどい行いにもかかわらず、姉の天照大御神はこれを咎めず、つぎのように言って弟をかばいました。「糞をまいたというのは、酔って吐いたものでしょう。また田の畔を壊し、溝を埋めたのは、土地が惜しいと思ったからでしょう」

 しかし弟の悪態はひどくなる一方でした。天照大御神が機織小屋で神の衣を織らせていると、須佐之男命はその小屋の屋根に穴をあけ、皮を剥いだ馬を落としいれました。そのとき、機織女(はたおりめ)はびっくりして、梭(ひ)(機の横糸を通す道具)に、陰部を突き刺して死んでしまいました。

 それには天照大御神も黙ってはいられませんでした。天石屋戸(あめのいわやと)(高天原にある洞窟の入口をふさいでいる岩)を開けて、洞窟の中に引き籠もってしまったのです。

 すると、高天原は暗闇に包まれました。葦原中国もことごとく暗くなりました。昼が来ない、夜だけの世界になり、よろずの神の声が夏ハエのように満ち溢れ、よろずの災いがことごとく起こるようになりました。

 つづく

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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