皇室のきょうかしょ 皇室のあれこれを旧皇族・竹田家の竹田恒泰に学ぶ!
vol.17 アマテラスの誕生(古事記、第四話)
 黄泉の国(よみのくに)から帰り着いた伊邪那岐神(いざなきのかみ)は、「自分はいやな、見る目も厭(いと)わしい穢(けが)れた国に行ってしまった。身を清めなくては」といい、日向(ひむか)(現在の宮崎県)の阿波岐原(あわぎはら)(所在地不明)を訪れ、禊(みそぎ)をしました。

 古くから水には浄化作用があると信じられています。心身の罪や穢れを水で祓(はら)い清めることを「禊」といいます。

 欧米人がたまにしかお風呂に入らないのに対し、昔から日本人はほぼ毎日入浴します。これは禊の文化の名残(なごり)だといえます。

 また、神社の入口近くには手水舎(ちょうずや)という手を洗う場所が必ずありますが、神社参拝の前に手を洗うのも禊です。本来であれば参拝前に前身の沐浴(もくよく)をするところなのですが、手を洗うことで、全身の禊をしたことにしているのです。

 何か悪いことをして、それを許してもらうことを「水に流す」といいますが、これも、罪穢れを流す、禊のことです。

 そして、日本の歴史上一番初めに禊が行われた記録が、このときの伊邪那岐神の禊です。


 伊邪那岐神は身に着けているものを次々と外していきました。このときに多くの神が生まれました。

 投げ捨てた杖から生まれたのが、海の道しるべの神である衝立船戸神(つきたつふなどのかみ)。

 次に投げ捨てた帯から生まれたのが、長い道の岩の神である道之長乳歯神(みちのながちはのかみ)。

 次に投げ捨てた嚢(ふくろ)から生まれたのが、時量師神(ときはかしのかみ)(名義未詳)。

 次に投げ捨てた衣服から生まれたのが、煩いの主の神である和豆良比能宇斯能神(わずらいのうしのかみ)。

 次に投げ捨てた袴(はかま)から生まれたのが、分かれ道の神である道俣神(ちまたのかみ)。

 次に投げ捨てた冠から生まれたのが、口を開けて穢れを食う神である飽咋之宇斯能神(あきぐいのうしのかみ)。

 ここまでで生まれた六柱(ろくはしら)の神は陸路の神です。

 そして、次に投げ捨てた右の手の腕輪と左の手の腕輪から六柱の海路の神が生まれました。


 身に着けたものをすべて外した伊邪那岐神は、禊を始めます。「上の瀬は流れが速い、下の瀬は流れが弱い」といい、中の瀬に潜り、身をすすぎました。

 その時に生まれたのが禍(わざわい)の神である八十禍津日神(やそまがつひのかみ)と、凶事(きょうじ)を引き起こす神である大禍津日神(おおまがつひのかみ)です。

 この二柱(ふたはしら)の神は、黄泉の国の垢(あか)から生まれた神です。

 次に、その禍(まが)を直そうとして生まれたのが、凶事を吉事に変える神である神直毘神(かむなおびのかみ)と大直毘神(おおなおびのかみ)、清浄な女神である伊豆能売(いずのひめのかみ)です。

 次に、水の底で体をすすいだときに生まれたのが、底津綿津見神(そこつわたつみのかみ)と底筒之男命(そこつつのおのみこと)。

 中ほどで体をすすいだときに生まれたのが、中津綿津見神(なかつわたつみのかみ)と中筒之男命(なかつつのおのみこと)。

 そして、水面で体をすすいだときに生まれたのが、上津綿津見神(うわつわたつみのかみ)と上筒之男命(うわつつのおのみこと)です。

 三柱(みはしら)の綿津見神は筑前(ちくぜん)(現在の福岡県)で海人(あま)集団を率いた豪族、阿曇連(あづみのむらじ)の祖先にあたります。

 また、三柱の筒之男命は航海の神で、大阪市住吉区の住吉(すみよし)大社に祭られています。


 そして、伊邪那岐神は最後に顔をすすぎました。左の目を洗ったときに生まれたのが、天にましまして照りたもう神である、天照大御神(あまてらすおおみかみ)。

 右の目を洗ったときに生まれたのが、月の神である、月読命(つくよみのみこと)。

 鼻を洗ったときに生まれたのが、嵐の神で、勇猛迅速に荒れすさぶる神である建速須佐之男命(たけはやすさのおのみこと)です。

 この三柱の神を生み終えた伊邪那岐神は大変に喜び、「自分は子をたくさん生んできたが、その果てに三柱の貴(とうと)い子を得た」といい、自らがつけていた首飾りを天照大御神に譲り、「高天原(たかまがはら)を治めなさい」と命じました。

 この首飾りは、ゆらゆらと揺らすと美しい音が鳴ります。また名を御倉板挙之神(みくらたなのかみ)といいます。御倉(みくら)の棚の上に安置する神という意味です。

 そして月読命には夜之食国(よるのおすくに)(夜の世界)を治めるように、また建速須佐之男命には海原(うなばら)を治めるように命じました。


 しかし、伊邪那岐神から海原の統治を命じられた建速須佐之男命は、国を治めず、泣きわめいてばかりいました。建速須佐之男命が泣いたことで青々とした山はことごとく枯れ山となり、河海もことごとく干上がってしまいました。

 建速須佐之男命の泣く様子は、まるで火山を連想させるようなものです。激しい噴火が木々を枯らし、また激しい降灰が河海を埋めて干上がらせるのとかぶります。

 これにより、悪しき神の声が夏のハエのように満ち溢れ、ありとあらゆる災いが起こりました。

 伊邪那岐神が心配して「どうして国を治めずに泣いてばかりいるのか」と尋ねると、建速須佐之男命は「自分は亡き母のいる根の堅州国(ねのかたすくに)(黄泉の国のこと)に行きたい。だから泣いているのです」と答えました。

 それを聞いた伊邪那岐神は激怒し、「ならばお前はこの国に住んではいけない」といい、葦原中国(あしはらのなかつくに)から建速須佐之男命を追放してしまいました。


 追放された建速須佐之男命はその後どうなってしまうのでしょう?ここからは天照大御神=アマテラスと、建速須佐之男命=スサノヲを中心とする新しい物語が展開します。次回をお楽しみに。

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出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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