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vol.3 日本国憲法第一章「天皇」
 日本国憲法(けんぽう)は、日本の「最高法規(さいこうほうき)」です。
「最高法規」とは、国にとってもっとも大切なことを定めた法律を意味します。憲法に反する法律などは効力を持ちません。
 世界の多くの国は憲法を定めていますが、日本国憲法の最大の特徴のひとつは、「国民一人ひとりの幸せ」(個人の尊厳(そんげん))を目的としていることです。具体的には、国民に自由・平等・福祉の価値を実現することを意味します。
そして、そのための手段として、日本国憲法では民主主義と平和主義が採用されました。自由・平等・福祉・民主・平和の五つの主義は、「憲法原理(げんり)」と呼ばれ、その具体的な内容は憲法の条文に書かれています。
 これら憲法原理を保障(ほしょう)するためには、国家が必要です。そのため、日本国憲法は日本国の仕組みを規定しています。

 では日本国憲法はどのように制定されたのでしょう?
昭和二十年(一九四五)、日本は太平洋戦争に敗北し、連合国軍(れんごうこくぐん)に占領統治されました。
連合国総司令部(そうしれいぶ)(GHQ)は日本に対して憲法改正を要求し、その当時の憲法だった「大日本帝国(だいにっぽんていこく)憲法」を改正するかたちで、「日本国憲法」が制定されたのです。
 そして、昭和二十二年(一九四七)年五月三日、日本国憲法が施行(しこう)されました。現在でも毎年五月三日は「憲法記念日」として国民の休日とされています。

 日本国憲法は前文と十一の章で構成されています。第一章は「天皇」で、その一番初めの第一条は次のように記されています。

 日本国憲法 第一章「天皇」、第一条【天皇の地位・国民主権】
「天皇は、日本国の象徴(しょうちょう)であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権(しゅけん)の存(そん)する日本国民の総意(そうい)に基(もとづ)く。」

 この条文は、(1)天皇は、日本国の象徴・日本国民統合の象徴であること、(2)日本国の主権は国民にあること、(3)天皇の地位は、国民の総意に基づくこと、を示しています。
憲法自体、国にとってもっとも大切なことを規定するものですが、どの国の憲法も第一条には、その中でもさらに大切なことが書かれています。
 議会制民主主義を特に大切にするアメリカは、合衆国(がっしゅうこく)憲法第一条冒頭(ぼうとう)に「この憲法によって付与されるすべての立法権は、合衆国連邦(れんぽう)議会に帰属する。」と書いています。
また、社会主義体制を特に大切にする中国は、中華人民共和国憲法第一条冒頭に「中華人民共和国は、労働者階級の指導する労農同盟(ろうのうどうめい)を基礎とした人民民主主義独裁の社会主義国家である。」と書いています。
日本国憲法とはかなり雰囲気が違うのが分かるでしょう。憲法には国柄が表れるのです。
 日本国憲法第一条冒頭の「天皇は日本国の象徴」というのは、日本にとって一番大切なことであるといえます。

 日本国憲法第一章は、象徴を記した第一条に続けて、第二条に「皇位は世襲(せしゅう)のもの」であるとしています。これは天皇の子孫が代々天皇に即位(そくい)することを意味します。そしてこのことは、憲法が成立する遥か昔、およそ二千年前から守られてきた伝統です。
 また、日本国憲法は天皇の権限として「国事に関する行為」(国事行為)を行うことを明記しています。
第三条と第四条一項で、(1)天皇は国政に関わることができないこと、(2)天皇は憲法に定める国事行為のみをおこなうこと、(3)天皇の国事行為には内閣(ないかく)の助言(じょげん)・承認(しょうにん)が必要なこと、(4)天皇の国事行為については内閣が責任を負うこと、などを規定し、続けて、第六条と第七条で、十二種類の国事行為を挙げています。

 日本国憲法はその他にも、皇室財産と皇室予算についても規定しています。第八条では皇室が財産を譲り受けたり、譲り渡すことを原則禁止し、また第八十八条では、(1)全ての皇室財産は国有(こくゆう)であること、(2)全ての皇室費用は国家予算に計上されること、などを定めています。
 また、憲法とは別に、「皇室典範(てんぱん)」、「皇室経済法」など、皇室に関係する法令があり、それぞれ細則を定めています。

 日本国憲法第一章を読むと、現在において、天皇と皇室が日本国の中でどのような地位にあるのか、またどのような役割があるのかを知ることができるのです。


参考資料

■日本国憲法 第三章「国民の権利及び義務」、第十三条【個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉】
「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

■アメリカ合衆国憲法 第一条〔立法府〕、第一節
「この憲法によって付与されるすべての立法権は、合衆国連邦議会に帰属する。連邦議会は上院と下院で構成される。」

■中華人民共和国憲法 第一条
「中華人民共和国は、労働者階級の指導する労農同盟を基礎とした人民民主主義独裁の社会主義国家である。社会主義制度は、中華人民共和国の基本となる制度である。いかなる組織又は個人も、社会主義制度を破壊することは、これを禁止する。」

■日本国憲法 第一章「天皇」、第二条【皇位の継承】
「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」

■日本国憲法 第一章「天皇」、第三条【天皇の国事行為に対する内閣の助言と承認】
「天皇の国事に関する全ての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。」

■日本国憲法 第一章「天皇」、第四条第一項【天皇の権能の限界】
「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。」

■日本国憲法に定められた天皇の国事行為の種類
1 内閣総理大臣の任命(第六条第一項)
2 最高裁判所長官の任命(第六条第二項)
3 憲法改正、法律、政令及び条約の公布(第七条、一)
4 国会の召集(第七条、二)
5 衆議院の解散(第七条、三)
6 国会議員の総選挙の施行の公示(第七条、四)
7 国務大臣その他の官吏の任免の認証及び全権委任状、大使・公使の信任状の認証(第七条、五)
8 恩赦の認証(第七条、六)
9 栄典の授与(第七条、七)
10 批准書等の外交文書の認証(第七条、八)
11 外国の大使・公使の接受(第七条、九)
12 儀式を行うこと(第七条、十)

■日本国憲法 第一章「天皇」、第八条【皇室の財産授受】
「皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは贈与することは、国会の議決に基かなければならない。」 ?
■日本国憲法 第七章「財政」、第八十八条【皇室財産・皇室の費用】
「すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。」

出典:「お世継ぎ」(平凡社)八幡和郎 著
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作家 プロフィール
山崎 元(やまざき・はじめ)
昭和50年、東京生まれ。旧皇族・竹田家に生まれる。慶応義塾大学法学部法律学科卒。財団法人ロングステイ財団専務理事。孝明天皇研究に従事。明治天皇の玄孫にあたる。著書に『語られなかった皇族たちの真実』(小学館)がある。
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