ゴマブックス“ベストセラー倒産”の裏事情 出版数増も

2009.09.08

 フジテレビ系でテレビドラマ化され、昨年12月に映画化もされたケータイ小説「赤い糸」の出版元として知られる中堅出版社「ゴマブックス」が倒産した。ベンチャー気質の社長は他業種とのメディアミックスやケータイ本ブームを仕掛けるなど、出版不況の渦中にある業界で注目の存在だったが、負債額は38億2000万円にも達していた。業界内では「ベストセラー倒産だ」と指摘する声もある。

 同社は1988年、「ポケットブック」の社名で設立。98年に現社名に変更し、ビジネス本や自己啓発本のほか、タレント本などを取り扱っていたが、ヒットに恵まれず経営は次第に悪化。フリーペーパーを発行する就職情報サービス会社「ディジットブレーン」と合併し、2004年4月、現社長の嬉野勝美氏(50)が就任した。

 「嬉野氏は、破たんした大手スーパーの再生などで知られる電気機器会社の会長や、堀江貴文氏らヒルズ族の若手IT企業経営者らと交流があった。ベンチャー精神にあふれた野心家で、最終的にはゴマブックスの上場を狙っていたようです」(同社関係者)

 嬉野氏は熊本大法学部卒業後、リクルートに入社。多くの雑誌の企画、創刊に携わった後、99年にフリーペーパーを発行する出版社「ディジット」の社長に就任。00年には同社をナスダックジャパンに上場させている。

 「そうした嬉野氏の手腕が存分に発揮されたのが06年の『赤い糸』の成功でした。テレビ局やレコード会社とのメディアミックスを積極的に仕掛け、小説は大ヒットしました」(出版関係者)

 05年には、親交のあった自民党の世耕弘成参院議員に「プロフェッショナル広報戦略」を書かせたり、タレント、中川翔子のブログ本を出版するなど話題作を連発。出版社の勢いのバロメーターである新刊書発行点数は04年の56点から倍々ゲームで増え続け、今年は600点以上。売上高は08年1月期で約32億1000万円にまで達した。

 しかし、急成長した分、転落の勢いもすさまじかった。「『赤い糸』に続くヒットが出なかった。ブームに乗じてオバマ大統領の演説CDブックなども出したが、話題モノは賞味期限も短い。出版点数ばかりが増えていき、ジリ貧になった。最後は原稿料の支払いを後回しにして新刊本の執筆依頼を乱発する状態だったようだ」と前出の出版関係者は言う。

 出版ニュース社の清田義昭代表は「業界内では『ベストセラー倒産』という言葉がある。1点のベストセラーで会社の規模が大きくなっても、後が続かなければその分だけ負担は重くなる。自転車操業的に新刊をどんどん増やしながら、それが売れ行きにつながらない負のスパイラルに陥っていたのではないか」と話している。