国債バブル後にドル暴落:三橋貴明(作家、経済評論家)(1)

Voice2009年5月9日(土)14:00
プラザ合意に次ぐ衝撃
 
2009318日、アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)は、17日、18日の両日に開催したFOMC(連邦公開市場委員会)の会合において、半年間で最大3000億ドルの米長期国債を購入することを決定した。通常の買いオペレーション(金利調整を目的とした公開市場操作の1つ)の枠から外れ、中央銀行が政府に財政支出用のマネーを積極的に提供する、プリンティングマネーへと大きく踏み出したのである。
 
FOMCの発表を受け、米国債の金利は3.01%から2.48%にまで急落した(国債価格が上昇)。FRBが米国債を買い取ることで、需給バランスが改善する(であろう)ことが好感されたのである。
 
同時に、米ドルインデックスは1970年の調査開始以来、3番目に大きな下落幅になった。分かりやすく書くと、ドルの価値が海外の各通貨に対して急落したのである。ちなみに、米ドルのインデックス指数について1日の下落率を比較すると、歴代のベストスリーは以下のとおりとなっている。
 
1位 1973213日 マイナス4.82%……第2次大戦後のブレトンウッズ体制が完全に崩壊し、ドル固定相場制度が終焉を迎えた日
 
2位 1985923日 マイナス3.48%……ニューヨークのプラザホテルでG5(先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議)により大幅なドル引き下げが決定された日。いわゆるプラザ合意
 
3位 2009318日 マイナス2.69%……FOMCによる3000億ドルの米長期国債買い取り決定
 
318日における1日のドルインデックス下落率は、ドル固定相場制の終焉、そしてプラザ合意に次ぐものだったわけである。
 
それが今後の世界に与える影響はきわめて大きい。当然、日本の将来にも深く関わってくるので、その背景とプロセスについて整理してみたい。
 
そもそも今回の世界的な金融危機の根本的な原因は、アメリカ国民による過剰消費にある。元来、アメリカ国民は日本人などに比べて消費好きであったが、2001年以降の不動産バブルと、それに伴うファイナンス技術(いわゆる金融工学)の発達により、その性向に歯止めがかからない状況に陥ってしまった。
 
史上空前の不動産バブルが弾けるまでの期間、アメリカ国民はホームエクイティローン(住宅価格の値上がり分を新たに借り入れる)やリファイナンス(住宅ローンの借り換え時に借入総額を増やし、差額を現金で受け取る)などの手法を駆使し、ひたすら消費につぎ込んだわけである。
 
しかし不動産バブルは崩壊し、国内から巨額の需要が失われた。アメリカ国民は、もはや借金で消費をすることが叶わなくなってしまったのだ。それどころか、今後はこれまでの借金を返済していかなければならないほどに落ちぶれたわけだ。
 
借金とは、要するに将来所得の先取りである。今後数年間の所得分を前倒しで消費してしまったアメリカでは、前代未聞の需給ギャップ(需要不足)が生じている。その額は、なんと1兆ドルを超えるともいわれる。1年間に100兆円もの需要が、アメリカから消える可能性があるわけだ。
 
この需給ギャップを放っておくと、アメリカのGDPはマイナス8%を超えるところまで大きく落ち込んでしまう。そのため米政府は財政支出を拡大することで、このギャップを埋めようとしている。アメリカ議会予算局によると、09会計年度の財政赤字はGDP13.1%の規模にまで膨らむ見込みだ。
 
さて、財政支出の拡大だが、具体的には政府が「何らかの手段」をもって資金を調達し、市場に投入することで需要を作り出していくことになる。何らかの手段とは、一般的には以下の3つになる。
 
(1)増税
 
(2)国債(米国債)の発行
 
(3)紙幣増刷(プリンティングマネー)
 
当たり前だが、需要が急速に冷え込んでいる状況で、まさか増税をするわけにはいかない。となると、米国債の発行(=アメリカ政府の借金)によりマネーを調達することになるが、アメリカ国内には十分な貯蓄がない。そのため、米政府は主に海外の中央銀行向けに国債を発行することで、財政支出の財源を確保している。
 
海外の中央銀行がなぜ米国債を買うのかといえば、貿易黒字などが原因で自国の通貨高圧力が生じた際に、各国の中央銀行が為替介入を行なった結果、手元にドルが溜まっていくからである。ドルをキャッシュのままもっていても仕方がないので、米国債を買う、すなわちアメリカ政府に貸し付け、運用するわけだ。かつての日本や、最近の中国などが典型である。
 
逆の言い方をすると、各国の貿易黒字が激減すると、通貨高圧力も生じず、中央銀行が為替介入をする必要がなくなる。日本は2004年以降、為替介入を実施していないが、最近貿易黒字が激減した中国さえも、介入の必要性が薄れてきているのである。
 
また、中央銀行以外の投資家が米国債を購入する理由であるが、基軸通貨ドルにより売買され、金利が支払われるがゆえに、米国債は世界で最も流動性がある証券といわれているためだ。それを証明するかのごとく、米国債はAAA(トリプルA)という最高格付けを維持している。
 
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