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《にっぽんの争点:医療》「後期高齢」維持か 廃止か

2009年8月20日17時17分

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 救急患者のたらい回し、産科医不足、地方の公立病院のベッド削減――。深刻な医療崩壊を食い止めるため、「養成する医師の数を1.5倍に増やす」(民主党)、「救急医療や産科・小児科・へき地医療の担い手である勤務医を確保」(自民党)など各党が医師不足対策を掲げ、この点について大きな差はない。

 対立するのは、75歳以上が入る後期高齢者医療制度(後期医療)についてだ。現行制度維持の自民、公明の与党に対し、野党は廃止を主張する。

 08年4月、国民健康保険(国保)や健康保険組合(健保)など公的医療保険に入っていた75歳以上の人は全員、後期医療に移った。与党は、「国保に入っていた世帯の75%は、後期医療に移って保険料が下がった」と、現行制度の長所を強調する。

 これに対し、民主、社民、国民新の3党は「国民を年齢で差別する制度。将来的には保険料負担が増える仕組みだ」と指摘する。共産、新党日本、みんなの各党も「廃止」で足並みをそろえている。

 ただ、後期医療を廃止した後に描く姿は異なる。共産党や社民党などは、75歳以上の人はかつて入っていた国保や健保に戻ってもらう考えだ。民主党は将来的に、サラリーマンが入る健保と自営業者や無職の人が入る国保など、すべての医療保険を段階的に統合し、地域単位の医療保険とする考えを示している。

 一方、長期入院の高齢者が多い療養病床を削減する計画についても、計画推進の自民党に対し、民主党は反対の立場だ。

 政府は、医療費の抑制を目指して、12年度までに35万床から22万床に削減する計画を進めている。ただ、療養病床を退院しても、介護施設などの受け皿が不足しているため、行き先がなかなか見つからないケースがある。

 自民党は「適切に措置する」と表現するにとどまる。舛添厚生労働相は11日の閣議後会見で、計画について「大きな方向は間違っていない」とした上で、「都市によっては(受け皿がなく)行き場のない方が出てくる可能性がある。経過措置をきちんとし、柔軟な運用を考えていくということ」と説明した。

 これに対し、民主党は「現在の計画では医療ケアが必要な人まで追いだされてしまう」として削減計画を凍結し、計画を見直す方針だ。

■避けられぬ財政負担

 野党の主張通り、後期医療が廃止されればどうなるか。

 すでに国保から後期医療に移った高齢者世帯の7割以上で保険料が下がったとされるだけに、再び国保に戻れば、保険料は逆に上がる可能性がある。負担増となる高齢者からの強い反発が予想される。

 民主党はこうした事態を想定し、保険料の増額を抑える費用を含めて国保に8500億円程度の国の財政支援が必要と見込む。

 民主党が新制度として掲げる医療保険を地域単位で一元化する構想に対しては、健康保険組合が「保険者が効率的な運営や健康づくりに努力する意欲を損なう」と反対。同党の支援組織の連合も懐疑的だ。自営業者らの所得の正確な把握などを含め、乗り越えるべき課題は多い。

 一方、後期医療の維持を掲げる与党は、年齢で区別されることに反発する高齢者の怒りを鎮めるため、これまでに計1168億円を投入し、低所得者を中心に保険料を軽減してきた。

 後期医療の保険料は、75歳以上の人口割合が増えるに従って引き上げられる仕組み。06年当時の試算では、08年度の6万1千円から15年度には8万5千円に増えるという結果が出ていた。今後、高齢者の不満を抑えるため、場当たり的に軽減措置を続ければ、医療費の抑制どころか、財政負担は増すばかりだ。

 後期医療と同様に、療養病床の削減計画も高齢者の評判が悪い。自民党はマニフェストで、高齢者の受け皿として今後3年間に、特別養護老人ホームや老人保健施設、グループホーム約16万人分の整備を目指すとしている。

 ただ、全国の自治体が06〜08年度に予定していた介護保険施設の整備計画は、実際には整備率が半分以下にとどまっている。与党の狙い通り受け皿整備が進むのか不透明だ。

 政府は、現行の削減計画が進めば約1200億円の医療費を削減できると見込む。民主党を始めとする野党側が主張するように、計画を中止した場合、増え続ける医療費の財源をどのように確保するのか、その具体的な対応策には乏しい。(南彰、中村靖三郎)

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